Fanfiction 二次創作 封印の地|白昼夢 全長版
白昼夢 全長版
ミッシェルが泊まっていたのは、市庁舎に程近い格式の高そうな宿だった。アヴィンを連れて部屋に向かおうとするミッシェルを、支配人と思しき男が追いかけてきた。
「恐れ入りますお客様。ご歓談は当店のレストランにてお願いしたいのですが・・。」
ミッシェルは最後まで聞かず、男の腕を取ってロビーの隅へ連れていき、何事か告げた。男はちらりとアヴィンを見たが、ミッシェルから代金を受け取ると何事もなかったように立ち去った。
「何だい?」
「気にすることはありませんよ。部屋ですごしたいと言ってやっただけです。さ、行きましょう。」
ミッシェルに連れられて入ったのは、続き部屋のある広くて豪奢な部屋だった。
「すごいな。こういうきらびやかな部屋で、落ち着けるのかい?」
アヴィンはあまり感心しないという顔で言った。
「貴族の泊まるようなところだからね。どこもこういう部屋らしいよ。」
ミッシェルはアヴィンの不満顔を見て苦笑した。
「もう・・・どうしてあなたになじみのない宿にしたか、わかってないんだね。」
ミッシェルはアヴィンに言った。
「こういうところはちゃんと客の事情をわかってくれるからね。普通の宿では口止めなんて効かないけれど、ここは大丈夫。あなたが何か言われるようなことにはならないよ。」
ミッシェルは待ちかねたといった表情で、アヴィンの手を取った。
「それとも―、アヴィンはもう、私なんかいやなのかな?」
アヴィンの淡い緑色の瞳を見つめながら、ミッシェルは言った。
今更いやかと聞かれても、とてもいやとは答えられない。ミッシェルがその気だとわかったときから、アヴィンはすでにミッシェルを受け入れていた。
ただ、何も知らなかった頃とは違う。自分達があまり一般的な関係ではないと、アヴィンは知っていた。分別をつけたい思いもまったく無いわけではない。
・・・でも、それ以上にミッシェルに甘えたかった。甘えさせてくれるひとときが欲しかった。
「あなたを忘れるわけないだろ? 」
アヴィンはミッシェルの手に指をからめ、海のように青い瞳を覗き込んだ。
「よかった。」
ミッシェルが笑顔になった。そのまま、アヴィンを引き寄せる。アヴィンは知らずのうちにまぶたを閉じていた。
唇が触れ合う。軽くかすめるように、幾度も。
胸がドキドキしてくる。こすれ合うような感触がくすぐったい。でも、だんだん焦らされているような気分になって、アヴィンは目を開けた。ミッシェルが何だい?と言うようにアヴィンを見た。
「もっと、ちゃんと・・・。」
言いかけて頬が熱く火照る。自分が何を言おうとしているのか、気が付いたから。
「・・しっかりキスして。」
声にも熱がこもる。半分吐息のような、かすれた声。ミッシェルが喉で笑っているのがわかった。
「かわいいよ、アヴィン。」
やさしい声がアヴィンの耳を打つ。ミッシェルの両手がアヴィンの頬を包みこみ、青い瞳が目の前に広がって・・・そして、願いはかなえられた。
アヴィンはミッシェルの肩に腕を預けた。ミッシェルの腕もアヴィンの背に回り、二人はしっかりと抱きあった。
強く、でもどこかやさしいミッシェルのキス。懐かしさがよみがえる。それは、くじけかけていたアヴィンの心を支えてくれた、温かな思い出だった。ふいに、身体の芯に火がともった。その、あまりに激しい感覚に、膝がくだけそうになる。
「立っているの、辛いのかい?」
アヴィンの体重を感じてミッシェルが聞いた。アヴィンは目を閉じたまま素直にうなずいた。
「横になろうか。」
熱っぽいミッシェルの言葉にアヴィンは慌てて目をこじ開ける。胸がドクンと打つ。アヴィンを見ているミッシェルの瞳に、いつもの彼にはない光があった。理性が支配していないミッシェルだった。
「ミッシェルさんでもそんな顔をするんだな・・・。」
「え?」
「ああしたい、こうしたいっていう顔だよ、それ。」
「それは・・・私も男だもの。久しぶりにゆっくり会えたんだ。アヴィン、自由にさせてくれるだろう?」
ミッシェルの片手が背中を這い降りていった。
「ほら、こことか・・・こっちとか。」
そう言いながら、ためらいなくアヴィンの身体に触れてくる。
「ああっ・・・」
不意を突かれ、アヴィンは足の力が抜けてしまった。あわててミッシェルにしがみつく。
「おやおや。歩けるかな?」
ミッシェルが笑いながらアヴィンの身体を支えた。
「だ、大丈夫・・・たぶん。」
思い出す限り、こんなにミッシェルに翻弄された事はなく、アヴィンは大丈夫と言いながらも、ミッシェルに身体を預けたままだった。全身が、ドクドクと脈打っていた。
ドサッと身体を投げ出す。
弾力のある寝台が、アヴィンの背中を受け止めた。敷いてあるシーツがひんやりとして心地よい。ミッシェルはしばらくアヴィンを見つめていたが、やがて急がないしぐさでローブの留め金をはずした。
寝台に上がったミッシェルは、アヴィンの靴を取り、それからおとなしく横になっているアヴィンに口付けた。
「アヴィン、上着も脱いでしまったら?」
「うん・・いいよ。」
そう言ってアヴィンは身体を起こした。そのまま、ミッシェルを待つ。
「私がするの?」
「自分でしちゃっていいのか?」
ミッシェルの反応を楽しむようにアヴィンが言った。
「・・・だめ。」
手を伸ばして、アヴィンの短い上衣を脱がせる。腰のベルトをはずすと、襟ぐりの広いシャツ姿になる。なんとも無防備な格好だった。シャツの襟元を広げ、ミッシェルは首筋に唇を押し当てた。
「ん・・。」
アヴィンが小さく反応する。ミッシェルはシャツの前をはだけていった。いつの間にか逞しくなったアヴィンの胸に、手を滑らせる。はじめて会った頃に残っていた少年の面影は、今やすっかり消えている。大人になったアヴィンは、たぶんミッシェルよりも逞しい。リードを許してくれるのは、昔の関係がそうだったからに過ぎないのだと、ミッシェルは思った。胸板に、幾つものキスを降らせる。アヴィンの反応が、彼の感じている快感を素直に伝えていた。
「・・ミッシェル・・、俺・・」
上ずった声が漏れる。アヴィンが身体を絡めてくる。腕だけでなく、足も、腰も。彼が急いているのがわかった。どちらが抱かれているのだかわからない。ミッシェルはアヴィンの若い印に触れてみた。ピクリと反応がある。それはすでに熱い。少し刺激を加えると、アヴィンが耐えられないようにうめいた。
「一度してしまおうね。」
ミッシェルのささやきに、アヴィンは身体を強く押し付けて何度も頷いた。ミッシェルは服の中へ手を潜り込ませた。熱いかたまりが押し付けられる。ゆっくりと形をなぞるように触れていく。アヴィンはと見ると、顔を真っ赤にして堅く目をつぶっていた。口を開き、喘ぎを逃がすように、速い呼吸を繰り返している。それがとてもかわいくて、ミッシェルは閉じたまぶたの上にそっとキスをした。
「あっ、あ・・・」
上ずった声が、頂に達した事を告げたのは、どれほど経ってからだろう。あっという間だった気がする。
我に返ると、ミッシェルはアヴィンをすっかり裸にしてしまっていた。アヴィンを愛撫するうちに、久しぶりの恋人を隅々まで見たくなってしまったのだ。アヴィンはミッシェルの下で、荒い息をついていた。
ミッシェルは、身体を起こしてアヴィンを見つめた。まだ陽は高い。カーテンを引いているが、身体の線はくっきりと見える。あられもない姿をしているが、それがかえって魅惑的でもあった。
アヴィンがじっとミッシェルを見た。伸ばされた腕がミッシェルの服を掴み、脱がせようとする。でも、力が入らないのか、果たせなかった。
「はやく・・・。」
アヴィンが言った。言葉にならない想いが、ミッシェルを満たした。アヴィンが待っている。身体がざわめいた。いてもたってもいられなかった。ミッシェルは服を脱ぐのももどかしく、アヴィンに覆い被さった。アヴィンが嬉しそうに抱きしめてくれる。触れ合った肌が火のように熱い。
「アヴィン・・・」
「ああ・・・ミッシェル!」
どちらからともなく、唇を重ねる。深く吸って舌を絡め、その激しさを分かち合った。何度も・・・数え切れないほどに。そうして、やっと最初のざわめきが落ち着いた頃、ミッシェルは再びアヴィンの半身に手を伸ばした。
「あんなに簡単にいくとは思わなかったよ?」
「ミッシェルが上手いからだ。・・・ガマンできなかった。」
「今度はゆっくり・・ね。」
足を心持ち広げさせ、奥の秘められた場所を探り当てる。アヴィンの顔が快感にゆがんだ。
「な、ミッシェル、たくさん経験を積んだんだろう。」
アヴィンが言った。ミッシェルは軽く笑った。
「さあね。子供まで作った人に言われたくないね。」
「だって、・・・他にもいるんだろう?」
「何が?私がこんな事をしたいのはあなただけですよ。」
「だって、あいつとか・・・違うのか?」
「あいつって。・・・あなたがにらんでいた人?彼にこんな思いを抱いた事はないよ。年も変わらないしね。」
「本当?」
「本当だよ。」
「・・・ならいい。」
アヴィンがやっと承諾した。
ミッシェルは逆に尋ねた。
「あなたのお友達はどうなの?」
「え?」
アヴィンは心当たりがなさそうに言った。
「誰?」
ミッシェルは一人で納得して笑いをかみ殺した。
「アヴィンらしいね。」
アヴィンがうそをつけないのは本当で、無理をしようとしても言葉でわかってしまう。今のアヴィンは違和感を感じさせなかった。思い思われ・・・、なかなかそうはいかないという事だ。
ライバルに昇格した男はいないようだと安心して、ミッシェルはアヴィンの身体を楽しむ事に集中した。
「アヴィン。私が欲しい?」
すっかり上気して、身体を絡ませてミッシェルが聞いてきた。アヴィンは迷わずに答えていた。
「欲しい。」
アヴィンの返事を聞いて、ミッシェルは嬉しそうに笑った。そして、甘えた声でねだったのだ。
「じゃあ、私をあなたのところに連れて行って。」
そう言って、熱くなった身体をアヴィンに重ねたのだ。密着した部分が自分を導いて欲しいと主張していた。
「つ、連れて行くって・・・?」
アヴィンはうろたえた。そんな返事が返ってくるとは思っていなかった。
「アヴィンがどこに欲しいかわからないでしょう?」
ミッシェルはやさしく言った。もちろん、アヴィンをからかうためなのはわかりきっている。
「もしかしたらここかも知れない。」
ミッシェルはアヴィンの唇を濡れた指先でなぞった。
「よ、・・よせよ、ミッシェル!」
アヴィンはミッシェルの手を払いのけた。
「ちがったかな?」
ミッシェルが笑いながら尋ねた。アヴィンは恥ずかしさに何も言えなくなった。
「さあ。」
耳元でミッシェルがそそのかした。アヴィンはさんざん照れた末に、ぎこちなくミッシェルをいざなった。一部始終を見つめていたミッシェルは、アヴィンが自ら身体を開いていく様子に興奮した。いとしい思いがあふれんばかりになり、ミッシェルは導かれた場所へためらいなく侵入していったのだ。
もう、言葉すら二人の間には入り込めなかった。見つめ合って、触れ合って・・・。さらに激しく、身体に感じるもののすべてで、二人は悦びをかみしめた。
「ミッシェル・・・」
アヴィンが切なそうに呼んだ。身体がいうことを聞かなくなりはじめていた。ミッシェルも今や自らの思いを解き放とうとしていた。
「アヴィン・・・アヴィン!」
想いの果てる瞬間、ミッシェルは叫んでいた。確かに応えがあったと、ミッシェルは感じた。そして、二つの波は重なりあって・・・一つになった。
部屋に差し込むひかりがにぶい赤金色に変わっていた。
二人はずっと抱き合っていた。大きな波が去ったあとも、離れられなかった。いつのまに役目をなさなくなったのか、ほどけたバンダナが二人のまわりに落ちていた。ミッシェルはアヴィンの顔にかかる前髪を弄びながら、ずっと余韻にひたっていた。
「食事を取りに行くかい?」
「いいや・・・もっとこうしていたい。」
「パートナーが心配するよ?」
「大丈夫さ。ミッシェルといるって知ってるんだから。」
「あなたが良いならいいけれどね。」
誤解を生まない方がいいのじゃないかとミッシェルは考えるのだが、アヴィンはそこまでは気が回らないようだ。ミッシェルも、アヴィンと離れたいわけではなかったので、二人は再び、余韻を楽しむ事に没頭したのだった。
実は、おととしの秋、裏を作ったときには、このお話は完成していました(おい)。
でも、当時はとても載せられるような状況じゃなかったので、途中までを「白昼夢」としてアップしました。
今が許される状況と言うわけでもないのですが、途中の物を置いていると言う気持ちがずっとあったものですから、この機会に出す事にしました。
・・・でも、読み返してみたら、ここにある中で一番危ないみたいですね。
「白昼夢」の所に書いた後書きは、この全長版を念頭に置いて読まれると正しく解釈できる物です。もっともあれから随分と場数を踏みましたので、中学生・高校生は最初に感じたほど多くはないんだって事もわかってきましたが。