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Fanfiction 二次創作 封印の地|アヴィン危機一髪!

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アヴィン危機一髪!

2

アヴィンとマイルが開発部門の助っ人として接待に出てから、数週間が過ぎた。
あれから、トーマスにもミッシェルにも会うことはなかった。
元々、噂でしか知らなかった人たちであったし、垣間見た営業の最前線にのぼせてしまったアヴィンはともかく、マイルは何もなかったかのような生活を続けていた。

「マイルが帰ろうってうるさいから、折角のチャンスを逃しちゃったじゃないか。」
あれから、アヴィンがよく言うようになった言葉だ。
マイルにしてみればとんでもない。
マイルはアヴィンを守ったのだ。
凄腕の営業マンミッシェルが、あろう事か、アヴィンを遊び相手に狙っていたのだ。
あの時、ミッシェルの勧めるままに泊まっていたとしたら、きっとアヴィンは無事では済まなかった。
マイルはそう信じている。
だが、遠まわしにそれとなく忠告しても、アヴィンは全く本気にしてくれないのだ。
ビジネスマンの見本として、ミッシェルを尊敬してしまっている。
マイルの不安はいつまでも消えなかった。


「ちょっとコピー取りに行って来るからな。」
アヴィンが席を立ちながらマイルに言った。
「うん。あ、アヴィン、ついでにコーヒー入れてきてよ。」
「オッケー。」
振り向きざまにそう言って、アヴィンは部屋を出て行った。
一年後輩のアヴィンは、マイルのいい相棒だった。
行動力があって、まず先に考えてしまうマイルとは、補い合える性格だった。
出来れば、二人のコンビでずっと仕事をやっていきたいとマイルは思っていた。

「アヴィン君の席はここですか?」
ふいに後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのある…いや、忘れようのない声だった。マイルは反射的に振り返った。
一見して上等とわかるスーツに身を包んだミッシェルが立っていた。
「…何か、御用ですか?」
思わず問い詰めるような言い方になった。
「君には用事はないですよ。」
ミッシェルは勝手にアヴィンの席に座った。
「ふーん、隣同士だったんですね。」
背もたれにもたれてマイルのほうを見る。
『嫌味な人だな。』
マイルは思った。アヴィンを諦めていないんだろうか。
「御用だったら、係長も課長もおりますから、そちらへどうぞ。」
「いえ、個人的な用事なのでね。どうぞ、ご自分の仕事をしていてください。」
まるでマイルの気持ちを逆撫でするようにミッシェルは言った。
「あのお…、お茶を入れましょうか?」
おずおずとシャノンが聞いてきた。マイルの機嫌が良くないのを察知して、ずいぶんとしおらしい。
『こんな人にお茶なんて出さなくていいよ!』
声に出すことは出来ず、マイルはシャノンを睨んだ。
「これはすみません。一杯いただけますか?」
ミッシェルが笑顔で答えた。
「は、はい。」
シャノンは笑顔のミッシェルと苦虫をつぶしたよう顔のマイルを見比べて、戸惑いながら給湯室へ立っていった。

「ミッシェルさん!」
しばらくして、アヴィンが戻ってきた。どこかで来客の事を聞いてきたのだろうか、足早にフロアを横切ってくる。
「やあ。久しぶりですね。」
ミッシェルは立ち上がった。
「ずっと見かけませんでしたけど?…。」
アヴィンが尋ねた。
「出張でした。昨日戻ってきたところです。あなたにこれを見せたくてね。」
ミッシェルは胸ポケットから折りたたんだ書類を取り出して広げ、アヴィンに見せた。
「これは?…あっ!」
アヴィンが書類に目を落として小さく叫んだ。
「これがお土産ですよ。」
ミッシェルはまた書類をたたんでしまった。
「すごいや。ありがとうございます、ミッシェルさん。」
アヴィンが嬉しそうな顔をした。マイルはすこぶる楽しくなかった。
「アヴィン、コーヒー忘れちゃった?」
マイルはアヴィンを小突いた。
「ああ、ごめんマイル。シャノンに頼んであるよ。」
「お待たせしました、マイル様っ。」
タイミング良く、シャノンが盆を抱えてやってきた。

「ご馳走様でした。」
ミッシェルはカップを盆に戻すと、アヴィンを手招きした。
「ちょっと良いですか?」
ミッシェルはアヴィンを連れて部屋を出て行ってしまった。
マイルはその後ろ姿を不機嫌な様子で見送った。
「あ~、マイル君。」
隣のシマのコンロッド係長がマイルを呼んだ。
「はい?」
マイルは営業スマイルに戻って返事をした。
「あれ、幻コンビのミッシェルさんですよねえ。総務の若手社員に何の用事なのでしょう?」
「さあ。個人的な用事だそうですから。」
マイルはつっけんどんに答えた。
「ああ、個人的なね…。そういえばそうだったね。」
コンロッド係長は、最後の方は口の中でもごもごと言った。
「そういえばって…何かあの人に噂でもあるんですか?」
「いや、噂といっても、中傷の類だと思うのだが。気にしない方がいいよ。」
「あの、差し支えなかったら教えてください!」
マイルは食い下がった。コンロッド係長は困った顔で、マイルをすぐ側に呼んで小声で言った。
「本当に噂なんだよ。あの人、若い男の子に興味があるって。他言無用ですよ、マイル君。」
「……。」
マイルはその場で固まってしまった。そんな噂があったんだ…。
前にトーマスに言われた事と合わせて、マイルのミッシェルへの評価は最低最悪のものになった。
「アヴィン君も、見かけに寄らないんだね。」
「アヴィンは違いますよ!」
思わず力説してしまったマイルだった。

「ようし、続き続き。」
アヴィンはすぐに戻ってきて机に座ると、嬉しくてたまらない様子で仕事に取り掛かった。
「どうしたんだい?アヴィン。」
ミッシェルは帰ったらしいが、アヴィンの変化は一体どういう理由だろうか。
「ん?ちょっとな。」
マイルが尋ねても、アヴィンは言葉を濁して教えてくれなかった。
なんだか、危険な予感がする。マイルは不安そうな様子でアヴィンを見やった。


「お疲れ様でしたぁ。」
「マイル様、おやすみなさぁい。」
「はいはい、お疲れさま。」
終業時間になった。女子社員が帰っていく中、マイルは帰り支度をしているアヴィンを見つけた。
「もう帰るの?」
「ああ、うん。用事があるんだ。」
弾んだ声でアヴィンが答えた。
「アヴィン、ミッシェルさんに会うのかい?」
マイルはついつい詰問口調になってしまった。
「なんだよ、俺が誰に会ったっていいだろう?」
アヴィンが強い口調で言い返した。
「やっぱりそうなんだ。前にも言ったけど、あの人は危険だよ。会わない方がいい。」
「ばかなことを言うなよ、マイル。あんな雲の上のような人と付き合えるなんて、滅多にないことなのに。」
「やめろよ、あの人は…」
思わず大声で言いかけて、マイルは口をつぐんだ。
「ミッシェルさんが、何だよ。」
アヴィンが詰め寄った。
「あの人が何だっていうんだ。キツイ事言うけど、気を使ってくれるし、本気で叱ってくれるいい人だぞ。」
「それはアヴィンに対してだけじゃないか。今日だって、僕に対しては冷ややかなものだったよ。あんな表と裏のある人に、近づいちゃダメだ。」
「俺はあの人からいろいろな事を教わりたいんだ。いくらマイルの言う事だからって、聞けないからな。」
「アヴィン!…あのね、ミッシェルさんは…」
マイルはさすがに周りをはばかって、アヴィンに耳打ちした。

「え?…」
アヴィンが信じられないという顔をした。
「まさか。何言ってんだよ、マイル…。」
「でまかせじゃないよ。接待の時にトーマスさんもそういうことを匂わせていたんだ。ほら、『夢は夢のままがいい』って、言われただろう?」
「うん…、でも、まさか。」
アヴィンは信じられないという顔付きだった。
「自分を犠牲にしたくないだろう?やめなよ、アヴィン。」
マイルがそっと諭すように言った。
アヴィンはうつむいて考え込んだ。
「…でも、俺。」
アヴィンは何かを決意した顔でマイルを見た。
「俺は、自分で確かめたい。」
「アヴィン!」
「ありがとな、マイル。気を付けるから。」
アヴィンはちょっと片手を挙げて挨拶すると、身を翻して部屋を出て行った。


「やあ、来ましたね。」
約束の店に着くと、ミッシェルが先に来ていた。
「すいません、ちょっと遅くなってしまって。」
アヴィンは頭を下げた。
「仕事に夢中でしたか?」
ミッシェルが立ち上がると、店の者が先に立って二人を案内した。
店の奥の、個室に通される。
靴を脱いで、一段高くなったフロアにクッションを敷いてじかに座る。
いわゆるお座敷である。
「珍しい店でしょう。くつろいでくださいね。」
ミッシェルは背広を脱いでハンガーに掛けた。アヴィンも真似て上着を脱ぐ。
『何を話したらいいんだろう。』
アヴィンはきょろきょろと部屋を見回した。食事を一緒にと誘われたが、別室に二人きりになるとは思わなかった。帰り際にマイルに告げられた事もあって、アヴィンは動揺していた。
「今日はいかがなさいます?」
「お任せしますよ。若い人に合いそうな物がいいかな。」
ミッシェルが言うと、店の者は慣れた様子で頷いた。
「わかりました。どうぞ、ごゆっくり。」

「ミッシェルさん、この店にはよく来るんですか?」
「ええ。この部屋が気に入っているんです。」
「そうですか…。」
アヴィンが落ち着かない様子なので、ミッシェルは苦笑した。
「慣れませんか?」
「はい。」
アヴィンは正直に答えた。たくさんの人がいるざわざわとした雰囲気がないと、どうも気分が落ち着かなかった。
「付き合いも経験ですよ。場数を踏めば度胸も付きますしね。」
「そういうものですか。」
「あちこち連れて行ってあげましょうね。」
ミッシェルは楽しそうに言った。

食事の間は、仕事の事やたわいのない話が続いた。
ミッシェルはアヴィンの職場の話を熱心に聞いてくれた。
「これで終わりです。ごゆっくりなさってください。」
最後の皿を運んできた店の者が言った。
「ありがとう。終わる時には呼びますね。」
ミッシェルはにこやかに答えた。

あらかた食事が終わった頃、テーブルに肘をついて、ミッシェルは言った。
「さて、そろそろ聞きたい事があるんですよ、アヴィンさん。」
「なんですか?」
アヴィンは答えた。
「誰に頼まれました?」
「え?」
ミッシェルの問いの意味がわからず、アヴィンはきょとんとした。
「…頼まれたって、何をですか。」
アヴィンはミッシェルに聞き返した。
ちょっとドキドキした。ミッシェルが、先ほどまでの穏やかな表情を引っ込めていたからだ。
「私に近付くことですよ。」
わかっているでしょう?という口調だった。
「そんなに白々しい顔をしなくてもいいんですよ。」
「どういう事だか、俺にはさっぱり…。何か、勘違いしているんじゃないですか。」
アヴィンがかぶりを振ると、ミッシェルは腕を伸ばしてアヴィンの肩を掴んだ。
「これでも言いませんか?」
ミッシェルはアヴィンを引き寄せて唇をふさいだ。
「!?」
アヴィンが目を見張り、それから猛烈な勢いでミッシェルを跳ね除けようとした。
「何するんだ!」
アヴィンが叫んだが、ミッシェルは答えなかった。
冷静な動きでアヴィンの両腕を捉え、身動きを取れなくした。
それからテーブルを回り込み、アヴィンを押し倒して、両腕を床に押し付けた。
「ミッシェルさん!俺はこんな事される覚えはない!」
アヴィンは大声で叫んだ。
「誰も最初はそう言います。自分の気持ちで私に近づいたとね。あなたも同じなんですか。」
「どういう事だよ…あなたに近づくって…。」
「私に気に入られて、すっかり仲良くなった頃に正体を表わすのではないですか?」
「何だって?」
アヴィンはミッシェルの言っている意味がわからなかった。
疑われているらしいが、全く覚えがない事だ。
「卑怯なやり口ですよ。ちゃんと私好みの相手を送り込んで来るんですからね。さあ、言いなさい。」
ミッシェルは睨むような形相でアヴィンに迫った。

「俺は人に頼まれたりしていない。」
アヴィンはミッシェルに告げた。
「まだそう言うんですか。」
ミッシェルは苦々しそうに言った。
「信じてくれないのか、ミッシェルさん。」
アヴィンは必死に訴えたが、ミッシェルの耳には届かなかった。
「哀願されたことも一度や二度じゃありません。聞けませんね。」
ミッシェルはアヴィンのネクタイを解いた。
その意図に気付いてアヴィンはもがいた。
「やめてくれよ!」
アヴィンの叫びには構わずに、片手でシャツのボタンをはずしていく。
あらわになった肌をミッシェルの手のひらが意図的に撫でまわした。
「い、いやだ!」
アヴィンの声が上ずった。
「受け入れる覚悟もないのに私に近づくからです。さあ、このままではあなたも被害者になりますよ。誰に頼まれたんですか?」
「いやだ…やめて…。」
アヴィンは首を横に振りつづけた。
「話しなさい。」
冷たい声がアヴィンに浴びせられた。
アヴィンは歯を食いしばってミッシェルを睨み返した。
「話す事なんか、ない。俺は、人に言われてミッシェルさんに近づいたんじゃない!」
ミッシェルは鼻であしらおうとして、アヴィンとまっすぐ目が合った。
そしてその顔に、損得の計算も、事が露見した狼狽も浮かんでいない事を見て取ってしまった。

「まさか……。」
ミッシェルはまじまじとアヴィンを見た。腕を掴んでいた手の力が緩んだ。
アヴィンは力一杯ミッシェルを押しのけ、下から抜け出した。
「あなた、自分の意志で…?」
「見損なったよ! 俺、あなたを尊敬してたのに!」
アヴィンは後ずさってミッシェルの手の届かないところへ逃げた。
「来るな!俺に近づくなよ!!」
「アヴィン、そうなのですか?」
ミッシェルは蒼白になっていた。
「あなたみたいな人と仲良くなれるなんて、俺の勘違いだったんだ…。」
アヴィンはミッシェルを警戒しながらシャツのボタンをはめると、ネクタイを掴んで部屋を飛び出した。
「アヴィン!待って!」
後ろでミッシェルが叫んだが、アヴィンは止まらなかった。

『ひどい…こんなことに、なるなんて…。』
アヴィンはしばらく走ってから、やっと立ち止まった。
路地に入って、ネクタイを結び直す。指先が震えて、不恰好にゆがんでしまう。
「しまった、背広…。」
店に忘れてきてしまった。
『戻るか?』
歩いてきた方を振り向いたが、もしミッシェルと鉢合わせしたら、またあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
そうでなくても、あんな事をされて彼と顔を合わせたくなかった。
『明日にでも取りに行こう。』
アヴィンは肩を落として歩きだした。


部屋に戻って、身体を洗った。シャワーと一緒に、不快な記憶を流したかった。
でも、生々しい感触は容易に消えてくれなかった。
ベッドに身体を投げ出し、アヴィンは後悔に暮れていた。
マイルの忠告の通りだった。
『ちゃんと話を聞いていればよかった。』
そう思ったが後の祭りであった。
『ミッシェルさん、ずっと俺を疑っていたんだ…。』
身体に加えられた仕打ちよりも、その事の方がショックだった。
『疑っていたから、職場の話を熱心に聞いてくれたんだ。優しくして、俺がすっかり気を許したのを見計らって、あんな事…』
熱いものがこみ上げてきて、アヴィンは声を押し殺して泣いた。

玄関のベルが鳴った。
ハッとしてアヴィンは身体を起こした。ドキドキした。
「誰だ。」
固い声で聞いた。しばらく返事がなかった。
「…私です。上着を忘れましたよ。」
アヴィンは唇を噛んだ。
どんな顔をして受け取れというのだろう。
シャツの袖で涙を拭い、アヴィンは深呼吸して玄関を細く開けた。

「返せよ。」
アヴィンはミッシェルを睨んだ。
ミッシェルは気遣うような顔をしていた。何か言いたそうだったが、黙って背広を差し出した。
アヴィンは服を奪うように取り戻すと、乱暴にドアを閉めた。
「アヴィン!」
外でミッシェルが叫んだ。
「開けてもらえませんか。さっきの事を謝りたい。」
アヴィンはドアに鍵を掛けた。
「そんな勝手な事が聞けるわけないだろ!」
「あなたを疑った事は謝ります。私の間違いでした。アヴィン、聞いて欲しい。」
ドアの前でミッシェルは声を張り上げた。
「帰れ、帰ってくれ!」
アヴィンは玄関に背を向けて叫んだ。涙がまたぽろぽろとこぼれた。
ミッシェルはしばらく外にたたずんでいたが、アヴィンが部屋を開けてくれる気配がないのを知ると深いため息をついた。
「…本当に済みませんでした。お休みなさい。」
そう告げると、ミッシェルは帰っていった。
アヴィンはいつまでも、玄関で泣いていた。


読者様、生きてますか~?(笑)

この章の開発ネームは<狼編>って言ったんです。
その名に恥じない、とんでもない展開になってしまいました。
裏ページでやりたかった事の一つ
「ミッシェルさんが男色家を自認している」も実現しました(笑)。
自認というか、実践というかですね…。
きっと今後も正面切ってアヴィンを誘ってくれると思います。

なるべく間を開けずに、三章目アップします。
こちらの開発ネームは<仲直り編>。しかし、仲直りできるんだろか(--;)

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