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Fanfiction 二次創作 封印の地|アヴィン危機一髪!

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アヴィン危機一髪!

3


数ヶ月が過ぎた。

季節は冬になっていた。
総務課は忘年会で、仕事を早目に切り上げて帰り支度をしていた。
「うわぁ、雪が降って来たわ。」
女性社員たちが窓の外を見てはしゃぎだした。見ると結構な雪が舞っている。
「近い店にしといて良かったわい。」
初老のロアン係長がぼそりと言った。
「マイルもアヴィンも、もう上がりなさい。」
「はい、わかりました。」
最後まで机に向かっていたマイルとアヴィンは、係長の声でやっと仕事から解放された。

「今年のお店はハーブを使った料理が得意なんですよ。」
「あ、そう・・・。」
ビルの中を、総務課の一同がぞろぞろと歩いていく。
アヴィンとマイルの間にちゃっかり割り込んだシャノンが、二人に腕を絡め、店の事を教えてくれる。
「マイル様はどんなお酒が好きなんですか?」
さりげなく、マイルの好みを聞き出そうとするシャノンは、総務のマスコットのような元気な娘だった。
「好きって、別にないかなぁ・・。」
マイルは苦手な様子を隠しもせず、シャノンにいいかげんに答えていた。
「この間、カウンターで薀蓄たれてたじゃないか。ワインに詳しいんだろ?」
アヴィンが横から口を挟んだ。
マイルがこらっという顔でアヴィンを睨んだ。
「うわーっ、ワイン?!素敵ですわ、マイル様!」
「ああ、もう…。アヴィン、恨むからね。」
マイルが困り顔になるのを、アヴィンは笑い飛ばした。
好かれているなら、誠意を持って相手をしてやればいいというのがアヴィンの考え。
逆に、何とも思っていないから相手なんて出来ない、というのがマイルの考えだった。
「真剣に受け止めてやればいいのに。」
「何でそんなこと。」
「シャノンは真剣だよな。」
「え? いやですわ、アヴィンさんったら!」
シャノンがひじでアヴィンのわき腹を突っついた。
「痛てて。」
アヴィンは大げさに傷む振りをして立ち止まり、マイルとシャノンから離れた。
そして、そっとシャノンにVサインを送った。
「アヴィンさんったら。ごめんなさーい。」
アヴィンの配慮に気付いたシャノンが、にっこりと笑って答えた。
「あ、こらアヴィン! 図ったな!」
マイルが気付いて騒ぎ出す。アヴィンとシャノンは腹の底から笑った。

『やっと元のアヴィンに戻ってきたな。』
マイルは思った。
ミッシェルに会うといった翌日、アヴィンは誰が見ても一目でわかる落ち込みようだった。
アヴィンの顔を見るまでは、何があったか聞き出してやろうと意気込んでいたマイルも、とてもそんな事を切り出せないほどだったのだ。
数日たって、やっと「何かあったら、力になるよ。」と伝えた。
アヴィンは照れた顔でありがとうと答えた。
それから、すこしづつ元気が出て、いつもの状態に戻ってきたのだ。
ミッシェルとの間に何があったのかは結局聞かずじまいだった。
正直、聞くのが怖かったし、そんな事を知らずとも、アヴィンがはつらつとしているだけで、マイルには嬉しいことだったのだ。
その後、総務課でミッシェルを見かけることはなかった。
アヴィンも二度とその名前を口に上せる事はなかった。


玄関の扉が開くたび、寒さが建物に吹き込んだ。
コートの襟を立てて、皆は足早に外へ出ていく。
最後になったアヴィンは、白い息を吐きながらロビーを突っ切った。
玄関ホールに着いた男が、大きなトランクを床に置いて、コートに積もった雪を払い落とした。
「あ…」
アヴィンは足を止めた。相手もアヴィンに気付いた。
「ミッシェルさん…。」
ほかに言葉が出てこなかった。時間が止まったみたいに、アヴィンは立ち尽くした。
「やあ、アヴィン。」
ミッシェルが親しげに笑い掛けた。
「……。」
何か、言いたいのに、言葉が出てこなかった。
胸が詰まるような熱いものが、アヴィンの喉をふさいだ。
「アヴィンさーん!付いて来てくださいよー。」
外のシャノンが振り返って呼んだ。
ミッシェルが声のした方を見た。
「友だちが呼んでいますよ?」
「あ、ああ…。」
アヴィンはまだ動けなかった。ミッシェルはそんなアヴィンを見て、言った。
「私は帰ってきたばかりですから。当分こちらにいます。」
その言葉に、アヴィンの呪縛が解けた。
なぜ自分がホッとしているのか。
自分の想いに心を乱しながら、アヴィンは皆を追って走った。


忘年会の間、アヴィンは自分の思考の中に沈んでいた。
ミッシェルは帰って来たと言った。今まで、どこかへ行っていたのだ。
大きなトランクを抱えて…きっと、ティラスイールかヴェルトルーナへ行ったのだ。
だから、途絶えたのだ。
…アヴィンに許しを請う電話が。
あの日から毎日、ミッシェルはアヴィンに謝罪したいと連絡を寄越したのだ。
アヴィンは会いたくないと断り続けた。
それがある日ぷっつりと途絶え、アヴィンは急に怒りの矛先を失って戸惑ったのだった。
『俺は、一体どうしてしまったんだろう。』
最初は怒りがよみがえったのだと思った。
だが、よくよく自分を見つめれば、怒りよりも懐かしさが、姿を見られた喜びの方が大きいと気付く。
いつの間にか、怒りはアヴィンの心から消えていたのだ。
確かにあれからいろいろと考えた。
ミッシェルの事も、情報の収集に努めたのだ。
確信は持てないまでも、あんな事になった理由も、おぼろげにわかっていた。
それがアヴィンに冷静さを取り戻させたのかもしれなかった。
『今ならミッシェルさんを許せるかも知れない。』
飲み友達にはなれなくても、せめて挨拶くらい出来る間柄に戻ってもいい。
アヴィンはそう思った。


「アヴィン。」
マイルが声を掛けた。
「おい、アヴィンったら。」
「ん?ああ、なんだよ、マイル。」
アヴィンはやっと気付いてマイルを見た。
「なんだじゃないよ。一人で沈み込んでさ。」
マイルは腕を腰に当てて、睨むようにアヴィンを見た。
「行ってこれば?」
マイルは言った。
アヴィンはハッとした。
「気になるんだろう?」
「でも…。」
「このままハッキリせずにいるの、いやなんだろう?僕もそんなアヴィンを見るのはいやだよ。」
「マイル…。」
アヴィンはしばらくマイルを見つめていたが、意を決して立ち上がった。
「ありがとう。会ってくる。」
「また泣き言があったら聞いてあげるよ。」
「うん…そうならないように、話し合ってみる。」
アヴィンはそそくさと店を出て行った。

「あら、アヴィンさん帰ったんですの?」
シャノンがマイルに声を掛けた。
「うん、まあね。……シャノン、ワイン頼んでみる?」
「えっ?!まあ、マイル様ったら!」
ポーっと顔を赤らめるシャノンに、マイルは慌てて言った。
「今日だけだからね、今日だけ!」


アヴィンは会社に戻ってきた。
だが、営業部のフロアまで来て困ってしまった。
ミッシェルがどこに属しているのかわからなかったのだ。
仕方なく残業している営業マンに尋ねると、もっと上の階だろうと言う。
「ここより上の階って…。」
さすがのアヴィンも知っていた。管理職が個室を持っているフロアがあるのだ。
『一体、ミッシェルさんって…。』
その疑問は、上の階に着いてますます膨らんでいった。
なぜかと言うと「営業部長室」「開発次長室」などと書かれている札の中に交ざって、
「ミッシェル・ド・ラップ・へブン」とか「C・ルーレ・トーマス」という札が付いていたからだった。
役職のついていない札は、却ってミッシェルの立場の特殊性を際立たせているように見えた。
アヴィンが集めた噂の類とも一致する。
『もしかして、本当に雲の上の人だったのかな。』
アヴィンはどぎどきしながら扉をノックした。
「誰ですか?」
中から間違いなくミッシェルの声がした。
「アヴィンです。」
アヴィンは返事をし、じっと待った。
駆け寄ってくる足音がして扉が開き、ミッシェルが顔を覗かせた。
驚いた様子だった。
「友だちと帰ったのではありませんか?」
「さっき、言い忘れたことがあったんです。」
ミッシェルが怪訝な顔をした。
「おかえりなさい、ミッシェルさん。」
アヴィンは言った。
「えっ?」
ミッシェルは言葉を忘れたようにぽかんとアヴィンを見つめた。
「俺、あの事はもう忘れようと思っています。それだけです。じゃあ。」
きびすを返したアヴィンの腕を、ミッシェルは慌てて掴んだ。
「待って!」
アヴィンがビクッと身体を硬直させた。
「もうすぐ終わるから。待っていて。」
アヴィンは振り返った。
「お願いだから待っていてください。…帰らないで。」
ミッシェルの真剣な声に、アヴィンの足が止まった。
「…ありがとう。さあ、入って。」

ミッシェルのオフィスは綺麗に整頓されていた。
椅子の一つにトランクが広げてあり、ミッシェルはそこから書類を棚に移していた。
アヴィンは空いている椅子に座ってその様子を眺めた。
「例のおもちゃ、ヴェルトルーナでヒットしますよ。」
作業を続けながらミッシェルが言った。
「え?」
アヴィンは思わず聞き返した。
「今回、改良を加えたサンプルを持って回ったのですが、とてもいい反応でした。」
そういえば、トランクの中に見覚えのある木人兵のおもちゃが覗いている。
「そうですか。ガウェイン課長さんが喜びますね。」
アヴィンは言った。
ミッシェルは棚の方を向いたまま、手を止めた。
「あなたにお詫びをするのは、こんな方法しかないと…。慰めにはならないでしょうけれど、私には他になす術が見つからなかったのです。」
アヴィンは驚いてミッシェルを見つめた。
「俺のために?」
ミッシェルが振り返った。
「あなたを傷つけてしまいました。確証もないのに、あんな事をするのではなかった…。悪い事をしたと思っています。」
まっすぐにアヴィンを見つめる瞳には、自分を攻める色が痛々しい。
「傷付けたって…俺は別にどこも傷付いてない。」
「いいえ。」
ミッシェルはアヴィンに歩み寄った。
「ここに…」
ミッシェルはアヴィンの胸にそっと手のひらを押し当てた。
「あなたの心に深い傷が刻まれてしまいました。」
アヴィンは茫然とミッシェルを見つめるばかりだった。
温かな手のひらを押し当てられて、心臓がトクトクと鳴っていた。
「あなたが、どんな理由で私に近づいてくるのか知りたくて、でも知るのが怖くて、あんな事をしてしまいました。ちゃんと尋ねれば良かったのに、だまし討ちのようにしてしまって。」
「もう、いいよ。」
アヴィンは首を振った。
「忘れてくれよ。」
ミッシェルの痛々しい瞳を見ていたくなかった。
「その事は、俺はもう忘れようと思っているし、ミッシェルさんも忘れていいよ。あれからいろいろと調べてみたんだ。あれは、ミッシェルさんの仕事だったんでしょう?」
アヴィンが言うと、ミッシェルはポーカーフェイスを繕った。
「何の事でしょうね。私はただの営業マンですよ。」
「ただの営業がこんな個室をもらうわけないじゃないか。」
アヴィンは一人用のオフィスを見回して言った。
「困った人ですね。お話できない事もあるのですよ。」
ミッシェルはわずかにほほ笑んだ。
それが無言の了解になった。
アヴィンの顔にも笑みが浮かんだ。
やっと、重い心のしこりも消えようとしていた。


「良かった。ミッシェルさんは人を弄ぶ事はしないよな。」
アヴィンはそう言ってミッシェルを見た。
ミッシェルはアヴィンから視線をはずすと、独り言をつぶやくように言った。
「…あの時の私…あなたを怯えさせたのも、本当の私ですよ。」
「そんなの信じられないよ。あれは演技…でしょう?」
「……」
ミッシェルは何も答えず、ただ悲しげな表情でアヴィンを見た。
「ミッシェルさん?」
返事のない事にアヴィンは焦った。
ミッシェルはアヴィンの肩に両手を置いて言った。
「もし、許してくれるのなら、もう一度最初からやり直したい。あなたの辛い記憶を、心地良いものに変えてしまいたいのです。」
「え?…」
アヴィンの顔に朱が差した。
「そんな…。俺は、誤解だとわかればそれだけで良いよ。」
「では、私のために。あなたとの辛い記憶を消すために協力してくれませんか?」
肩を掴まれているアヴィンに逃げ道はなかった。
ミッシェルを見返して、アヴィンは思案に暮れた。
「俺は、俺も忘れたいけど…でも。」
あの時のミッシェルが本当の姿だと言うなら、彼がやろうとしている事は…。
『あなたに抱かれるのは、それは…。』
心の内で思うだけでアヴィンの胸は苦しくなった。

「でも?なんでしょう?」
ミッシェルは優しい声で尋ねた。
まなざしはずっとアヴィンを捕らえて離さない。
「そんな事出来ないよ…。それに、忘れられないよ。」
顔を真っ赤にしてやっとアヴィンは言った。
ミッシェルの片手が、アヴィンの頬に触れた。
「すぐに忘れてしまいますよ。あなたは、私の大切な人になるんですから。」
「ミッシェルさんっ!」
アヴィンが驚いて叫ぶのと、ミッシェルがアヴィンを引き寄せたのはほとんど同時だった。
アヴィンを胸に抱きこみ、髪に、頬に、顔をすり寄せてミッシェルがささやいた。
「ずっと前から、こうしたかったんです。」
アヴィンは全身を鋼のように硬直させた。
ミッシェルの抱擁は優しく、前に押し倒された時のような恐怖感はなかった。
ただ、何も知らない事に一歩踏み出すことが怖い。
アヴィンの様子に気付いたミッシェルが、安心させるかのように背を撫でてくれた。
その暖かさに包まれて、アヴィンは少しづつリラックスしていった。
アヴィンはミッシェルの背におずおずと腕を回し、体重を預けて、早鐘のような自分の鼓動を聞いていた。


それから、アヴィンはミッシェルの住まいに招かれた。
窓の外は雪が降りしきっていた。
明りを落とした部屋で、二人はもう一度抱きあった。
ミッシェルが、今度はきつくアヴィンを抱きしめた。
密着した身体を、なおも深くつなぐように唇が重ねられた。
熱く深いキスから解放されたとき、アヴィンはもっと触れ合っていたいと自覚した。
「ミッシェル…。」
ほとんど吐息のようなかすれた呼び声。
ミッシェルにはそれで十分だった。
アヴィンの背広を床に落とし、自分の上着も脱ぎ捨てると、
ミッシェルは壊れ物を扱うように、そっとアヴィンをベッドに横たえた。

おわり!


お待たせいたしました。完結編でございます。

最後の一節は余分かなぁと思いましたが、
オフィスであのまま…な訳にもいかないでしょうってことで足してみました。
2をアップした時にはかなりの部分が書きあがっていたのですが、
ラストの3節分に数日かかってしまいました。
文字通り、書いては消しの繰り返しでした~。
ミッシェルさんの「私の大切な人に」が浮かび出て、やっと落ちました(笑)。

最後までは、書きませんでした。
このノリでいくのは非常にまずいだろうと…(--;)
ボキャブラリーが底を付きかけていて、既出のお話とダブっている表現が多々あるのですが、お許しを。
アヴィンのかすれ声は「白昼夢」と同じだし…。(似たような状況ですしね。)

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