Fanfiction 二次創作 封印の地|アヴィン危機一髪!
アヴィン危機一髪!
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「アヴィン。今夜付き合ってくれますか?」
ミッシェルの腕の中で、やっと落ち着いた気持ちになっていたアヴィンは、その一言でまた身体を固くした。
「付き合うって…。」
ミッシェルの胸にうずめた顔を、わずかに起こして問う。
「一緒に居て欲しい。」
ミッシェルはアヴィンを抱いたままささやいた。
アヴィンが息を飲むのが聞こえた。
言葉通りに受け取ってはいけないと、アヴィンの心が警告する。
ミッシェルは、一度は強引にアヴィンを押し倒した相手なのだ。
悔いて、謝ってくれたものの、そういうことをしたのが自分自身の別な一面だと告げてもいる。
ミッシェルにとって、アヴィンは欲求を覚える相手なのだ。
つい先程までのアヴィンだったら、迷わなかったに違いない。
ミッシェルから懺悔の言葉を聞く前なら、そんな誘いはすぐさまことわっていたはずだ。
だが今、アヴィンは答えの出ない迷宮に入り込んだ気分だった。
ミッシェルが本来は堅実な人間だと知ってしまった。
元々人を疑う事のないアヴィンだから、ミッシェルを信じたい思いが大きく膨らんでいくのは否定しようがない。
やり直したいと言ったミッシェルを信じたい思い。
またあんな事になったらどうしようという思い。
相反する思いに困惑する。
決めるのは、アヴィンなのだ。
誰も手助けはしてくれない。
『もし、いやだって言ったら…。』
ミッシェルは怒らないだろう。アヴィンを解放してくれるに違いない。
そして、きっと、二度と誘いを掛けたりしないと言ってくれるだろう。
『そうしたら、…もう会えない。』
会わす顔がない。
自分に都合の悪い事を断っておいて、ミッシェルの働きっぷりを見習いたいなんて言えない。
『それは、いやだ。』
アヴィンは思った。ミッシェルの魅力に惹かれていた。
側にいて、影響を受けたかった。彼が能力を発揮する場面を見たかった。
『でも…。』
もし、求められたら?
今、優しく抱き寄せてくれている腕が、無理矢理アヴィンの自由を奪ったら?
『……。』
その時はまた暴れればいいじゃないか。
アヴィンはそう思った。
ミッシェルはやり直したいと言っているのだ。
先日のような事は起こさないはずだ。
「アヴィン?」
黙り込んでしまったのに痺れを切らしたか、ミッシェルがアヴィンを促した。
「ん。いいよ、付き合う。」
アヴィンは顔を上げて答えた。
「本当?」
ミッシェルが、驚きと喜びの混ざった顔で聞いた。
「ああ。」
「ああ!それじゃ、すぐに用意しますからね。」
ミッシェルはぎゅっとアヴィンを抱きしめてから立ち上がって、残った書類の束を片付けはじめた。
その様子がとても嬉しそうで、アヴィンは思わず苦笑した。
ミッシェルの家は、郊外の丘の上のマンションだった。しかも最上階。
一歩中に入ると、正面の窓に街の明りが広がっていた。
「うわ…すごい眺めですね。」
アヴィンは足元に気をつけながら、窓際に歩み寄った。
雪はまだ降りしきっていた。
暗闇にほのかな街明りと、白く舞い踊る雪。
忍び寄る寒さも忘れて、アヴィンはしばし見入っていた。
「明りをつけても良いですか?」
ミッシェルが苦笑混じりに聞いた。
「あっ、はい!」
アヴィンは慌てて答えた。
「すいません、見とれちゃって。」
ぱっと明りがついた。
アヴィンは部屋を見渡した。それほど広い部屋ではなかった。
窓の側に広めのベッド、その隣にテーブルとソファのセットがあった。
片側の壁際がクローゼットになっていた。
他の物は全てそこに収まっているのだろうか、部屋はシンプルそのものだった。
ミッシェルはクローゼットを開いてトランクをしまい込み、コートを脱いだ。
「すぐに空調が効きますから。コーヒーでも入れましょうね。」
アヴィンにソファを勧めると、ミッシェルはキッチンに立った。
アヴィンはぎこちなくソファへ座った。
意識せずにいようと思っても、どうしても緊張してしまった。
取り返しのつかない事をしてしまったのではないか。
その思いが拭えなかった。
ミッシェルがマグカップを両手に持ってやって来た。
一つをアヴィンに手渡すと、当然といった様子でアヴィンの隣に腰をおろした。
「・・・・・・。」
しばらく、コーヒーをすする音だけが部屋に満ちた。
ミッシェルがマグカップをテーブルに置き、アヴィンに向き直った。
「さっきは本当に嬉しかったですよ。」
「え?」
アヴィンは思わずミッシェルを見た。
「あなたが来てくれた時、やっと道が開けたと思いました。それまでは、償う事も出来ずに後悔するばかりだったのです。あなたは、私を救ってくれた。」
「大げさだよ、ミッシェルさん。」
アヴィンは照れて苦笑いした。
「笑い事ではありませんよ。あれからずっと、私はひとときたりとも忘れる事が出来なかったんです。遠い異国で連絡を取る事も出来ずに、あなたの憎悪のこもった目ばかり思い出していた。」
ミッシェルは真剣な顔をしていた。
「忘れても良いと言ってくれて、どんなに私の気持ちが軽くなったか、わかってくれますか?それに、今こうして、ここに居てくれる。」
ミッシェルはついと手を伸ばして、アヴィンの腕に触れた。
ビクンとアヴィンの身体が震えた。
アヴィンは慌てて横を向き、マグカップをテーブルに置いた。
ミッシェルを振り返る事が出来なかった。
胸がドキドキ鳴っていた。
「アヴィン。」
優しい、だけども逆らえない声でミッシェルが呼んだ。
アヴィンは膝でぎゅっとこぶしを握り締めた。
ミッシェルはその握りこぶしを両手で包み込んだ。
そして、自分の方へと引き寄せた。
アヴィンの目がミッシェルを見た。
ミッシェルはアヴィンの肩を抱いた。
はっと身体を固くしたアヴィンが、観念したように目を閉じた。
ぎゅっと目を閉じ、構えていたアヴィンの額に、ふわりと羽のような軽い感触が当たった。
何度かそれが繰り返され、優しく髪を撫でられて、アヴィンはそっと目を開いた。
間近にミッシェルの瞳があった。
アヴィンの視線に気付いたミッシェルが、まぶたの上に柔らかなキスを落とした。
辛い記憶のキスとは、まるで違うものだった。
アヴィンは大きく息をつき、気張っていた力を抜いた。
そのまましばらく、控えめな、くすぐったいキスに身を任せた。
ミッシェルの片手が、アヴィンのあごを捉えた。
目を開けると、正面にミッシェルの真剣な、それでいて甘い魅惑を含んだ顔があった。
「私たち、やり直せるかな?」
ミッシェルがアヴィンを見てささやいた。
「…はい。」
アヴィンは答えた。胸がきゅっと鳴った。
ミッシェルが覆い被さってきた。
ソファの背もたれに押し付けられて、アヴィンはミッシェルのキスを受けた。
先程のキスとはまるで別のものだった。
強く、そして熱かった。
身体から力が抜けて、崩れそうだった。
何もかも吸い取られてしまう気がした。
ミッシェルはアヴィンの背広のボタンをはずした。
胸元から肩に手を差し込んで、背広をすべり落とす。
それを掴んでテーブルに放ると、ミッシェルはアヴィンをソファに押し倒した。
「!!」
アヴィンの叫びは、次の瞬間にはまた唇で塞がれてしまう。
ミッシェルはアヴィンを抱きしめ、繰り返しキスをした。
アヴィンはミッシェルの背中にしがみつき、懸命にミッシェルを受け止めようとしていた。
たちまち息が荒くなった。
アヴィンがあえいでいるのに気付いて、ミッシェルはやっとアヴィンを解放した。
アヴィンは胸を上下させて、大きく息を吸い込んだ。
ミッシェルは自分も上着を脱いだ。
「苦しいですか?」
そう問いかけながら、アヴィンのネクタイに手を掛ける。
「ミッシェルさん。」
アヴィンが声を尖らせた。
何をするのかと、アヴィンの瞳が糾弾していた。
ミッシェルはネクタイを緩めるのをやめて、アヴィンの首筋にゆっくりとキスを落としていった。
アヴィンが身体を振るわせる。
反応があったことに気を良くし、ミッシェルは耳たぶに軽く歯を立てた。
「てっ!」
アヴィンがミッシェルの胸に両手を押し当てた。押しのけようとしたのだろうが、手の力が抜けていた。
それは彼の拒否の度合いの低さも物語っていた。
今度は、アヴィンの反応のあった場所を狙ってキスをする。
歯を食いしばって声を押し殺してみるものの、アヴィンはたちまち耐え切れなくなってきた。
漏れはじめた歓喜の声を、ミッシェルは唇でふさぐ。
アヴィンの想いを奪い取るように強く吸うと、初めてアヴィンが同じことを返してきた。偶然ではないかと再びキスをすると、確かに求めてくれている。
もう一度、さらにもう一度…。
交歓のリズムを失わないように気を使いながら、ミッシェルは徐々にアヴィンの反応を引き出していった。はじめは無意識だったアヴィンも、きっと途中で気付いたはずだ。だが、アヴィンはいやがらず、むしろ、ミッシェルに負けるものかとむきになっていた。
十分にアヴィンをむさぼり、満足すると、ミッシェルはもう一度アヴィンのネクタイに手を掛けた。
今度は抵抗がなかった。
ネクタイを解き、シャツのボタンをはずす。
露になった胸元にはうっすらと汗さえ浮かんでいた。
アヴィンはおとなしくしてミッシェルに任せきっている。
だが、ミッシェルがアヴィンの胸に顔をうずめようとした時、アヴィンは言った。
「待って、ミッシェルさん。それは、だめだ。」
「え?」
アヴィンは散々翻弄されて、頬を上気させていたが、それでもはっきり言った。
「この間は、そういうことは、しなかっただろ?」
ミッシェルは一瞬言葉を失った。
「それはそうですけど…。」
だからと言って、こんな中途半端に終われるものではない。ミッシェルはそう思ったが、口には出さなかった。
「ミッシェルさんがいやな思い出を忘れるためなんだからな。同じ事はいいけど、これ以上はダメだから。」
アヴィンは自分の言い分をしっかり主張した。
自分でもちゃんと言えたと思っているのだろう。満足そうな顔をしていた。
「アヴィンも一緒に忘れてくれるのではなかったのですか?」
ミッシェルはアヴィンの顔を覗き込んだ。
「俺は元々忘れるつもりだったから。」
アヴィンは言った。
これで責任は果たしたというような顔だった。
「それでは仕方ありませんね。」
ミッシェルは肩をすくめ、アヴィンの上から退いた。
アヴィンがのろのろと、起き上がろうとした。
「……でもね、アヴィン。」
ミッシェルはアヴィンをじっと見つめて言った。
「あなた、そのままでは辛いのではないですか?」
「!!」
アヴィンが顔を真っ赤にした。図星らしかった。
「そ、そんな事ないよ!」
慌てて言い訳をするが、この場合言葉より身体の方が正直である。
「とても大丈夫には見えませんよ。そんな状態で外に出られるの?」
ミッシェルはアヴィンの身体に遠慮なく視線を落として言った。
「大丈夫だよ。…ちょっと、休めば…。」
アヴィンの返事がしどろもどろになる。
ミッシェルは目を細めてアヴィンを見た。
「楽になった方がいいんじゃありませんか?」
「なっ、そんな事、出来るわけないじゃないかっ!」
アヴィンが声を張り上げる。そうする事でしか、ミッシェルの問いかけから逃れられないのだろう。
身体の方は、少し動くのにも辛そうにしていた。
ミッシェルはちょっとアヴィンを苛めたくなった。
いい雰囲気になってきたところに水を差されて、むっとしたせいもある。
「私はこの間と同じ事をしたんです。あなたの苦痛を取ってあげるのも、私の役目じゃないのですか?」
そう言って、アヴィンに膝を詰める。
アヴィンが慌ててソファの反対側に一歩引き、そのとたん、なんとも辛そうな顔をした。
ぎゅっと目をつぶって、衝撃が通り過ぎるのを我慢しているアヴィンを、ミッシェルはずるいと思った。
「どうしてアヴィンはそんな風になったのですか?」
ミッシェルは尋ねた。
「どうしてって…ミッシェルさんが、したからだろう!」
アヴィンが恥ずかしそうに言い返す。
「前の時にはこんなにならなかったでしょう?でも今日はすっかり…ね。何故ですか?」
「そんなの、わかるもんか!」
トマトのように真っ赤になった顔を両手で包み込んで、ミッシェルはアヴィンを見つめた。ゆっくり顔を近づけ、こつんと額を突き合わせる。
「それは、あなたが私を受け入れてくれたからでしょう?」
ミッシェルが告げると、アヴィンはふるふると首を振った。
「違う…。」
「どこが違うんですか?ほかに何も原因などないでしょう。」
ミッシェルは腕を伸ばしてアヴィンの腰を抱き寄せた。
「わっ!」
アヴィンが身をよじり、彼はミッシェルに上体をぶつけた。
荒い呼吸がミッシェルの肩のあたりから聞こえた。
「ちくしょう…。俺、どうしちゃったんだよ。」
上ずった声が余裕のなさを示していた。
ミッシェルはアヴィンの耳元にささやいた。
「私に任せて、アヴィン。」
アヴィンが身体を固くした。
「初めてでしょう?決して後悔はさせないから、私に身体を預けて欲しい。」
今更、遠まわしに言っても仕方がない。
ミッシェルは短刀直入にそう言った。
「……。」
長い間があった。
アヴィンの荒い息づかいが、彼の逡巡を示していた。
「ミッシェルさん。」
やがてアヴィンが顔を上げてミッシェルを見た。
「俺…。頼む、俺を…。」
最後まで言えず、アヴィンはミッシェルの首にすがりついた。
「こっちへおいで。」
ミッシェルはアヴィンの手を引いてベッドへ誘った。
アヴィンは覚悟を決めて付いて来る。
ベッドの上で向かい合うと、ミッシェルはアヴィンに優しくキスをした。
「怖くないからね。」
アヴィンがこくんと頷いた。
張り詰めている肩を背中を、そっと撫でてやる。
アヴィンはぎゅっと目を閉じて構えていた。
ミッシェルはアヴィンを横たえ、ベルトのバックルをはずした。
すっかりしわになってしまったズボンを、迷いもなく引き下ろす。
意外と肉付きのいい大腿があらわになった。
ミッシェルは愛しい思いに駆られて、あちらこちらにキスを落とした。
「ミッシェルさん、楽しんでるだろ。」
不意にアヴィンが言った。
拗ねているような、怒っているような口ぶりだった。
「わかりますか?」
ミッシェルは即座に答えた。
「だって、全然確信を突いて来ないじゃないか。」
アヴィンは、怒っているのかあきれているのかわからなかった。
さっさと済ませて欲しいのかもしれない。
もちろん、ミッシェルにそんなつもりはなかった。
「最後のお楽しみだったんですが。」
ミッシェルはしらっと言ってのけると、アヴィンの胸に手を滑らせた。
首筋から胸に、キスを降らせる。
アヴィンはミッシェルの頭に両手を添えていた。
時おり、熱い吐息が漏れる。
ミッシェルはへその窪みに口付けると、片手をアヴィンの身体の中心に滑らせた。
肌着の上から熱い昂ぶりに触れる。
アヴィンが、震えた。
確かめるように触れただけでも、大げさなほどの反応があった。
『あまり楽しむ時間はないようですね。』
ミッシェルはアヴィンの最後の着衣を取り除いた。
緊張してぎゅっと目を閉じているアヴィンがとても愛しかった。
あらわになった身体に覆い被さり、全身で抱きしめる。
「あっ、だ、だめだっ!」
アヴィンが暴れた。
「アヴィン、今度は何?」
笑いながらミッシェルは聞いた。
いいかげん観念して欲しいとも思うのだが、たわいもないアヴィンの抵抗は、初々しくて怒れなかった。
「ミッシェルさんが…汚れちゃうよ。」
アヴィンも自分の言っている事がただの時間稼ぎだとわかっているのだろう。
消え入るような声でつぶやくと、横を向いてもぞもぞとしていた。
「私の心配をしてくれたの?」
ミッシェルはアヴィンの横顔にお礼代わりのキスをした。それから自分の着ていたものを全部脱いでしまった。
再び身体を重ねる。
「さあ、もう大丈夫。」
腰を重ね合わせ、ゆるく動かす。
アヴィンもそれを真似てミッシェルにリズムを合わせた。
たちまち、興奮が高まっていく。
自分を律していたものから、本能へ、身体を支配するものが変わる。
腕の中でアヴィンが大きく背を仰け反らせた。
彼の歓喜の声が耳をつらぬいた時、ミッシェルもまた、自分を解放していた。
「アヴィン、まだ前の事覚えている?」
暖かな毛布の中に寄り添って、二人はまだじゃれあっていた。
アヴィンは首を横に振った。
「忘れちゃったよ。もう、今日のことしか思い出せない。」
アヴィンが答えるとミッシェルは満足そうな顔をした。
「ミッシェルさんは?ちゃんといい思い出になった?」
今度はアヴィンが聞いた。
「もちろんですとも。」
ミッシェルは笑顔で答えた。
そして、ちょっと考えて、付け加えた。
「でも、思い出ではなくて、これからもっと積み重ねていきたいですけどね。」
fin
ここまで読んでくださってありがとう。
立派なブラック仲間ですねv
いろいろな展開を考えたのですが、(最後にアヴィンが明りを消してと頼むとか。
ミッシェルが自分のわがままも一つくらい聞いて欲しいと言い返して、それを断るとか。
シャワーとか。……きりがない(笑))
せっかくミッシェルさんを男色家に仕立てたので、最後まで粘って願いをかなえてもらいました。
その~最後まではしてませんケド(*^^*)。
たぶん、アヴィンのかわいいところを見たかったのが第一だと思うので。
これからも紆余曲折しながら、関係を深めていってくれるでしょう(期待)。
最後のじゃれあい会話を書きながら、全編このノリで書けばよかった…などと思いました。
どれほどシリアスアヴィンにてこずっていたのかがわかりますね。
そんなわけで、なぜか下のような予定が(笑)。