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Fanfiction 二次創作 封印の地|逢瀬

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逢瀬

「どこに泊まりましょう。」
数ヶ月ぶりに落ち合うなり、二人が臆面もなく始めたのは今晩の宿の相談だった。
「任せるよ、どうせ決めてあるんだろう?」
アヴィンがミッシェルの横腹を小突いた。
逢瀬の度に、普段は足を向けようとも思わない高価な宿に泊まる羽目になるのだ。
普段使う酒場兼宿屋では、いろいろと落ち着いて過ごせないのは確かなのだが、アヴィンには一向に慣れないことだった。
「それが、今日は本当に当てがないんですよ。私も今着いたばかりで。」
ミッシェルは小声で言った。
「そうか!それなら……。」
アヴィンは急に元気になって思案を巡らせた。
ここはボルンの街角であった。
まだ陽も高く、往来に人通りもある。
「町を出て少し行ったところに、きこり小屋があったはずだ。今頃は切り出しもあまりないから誰もいないと思うんだけどな。」
アヴィンが言うとミッシェルは渋そうな顔をした。
「町の中には心当たりはないんですか?」
「ここは小さな町だからな。それに、たまには俺の気の休まる場所にしてくれよ。」
アヴィンがねだるようにミッシェルを見つめると、さすがの大魔道士も言い返せなかった。
ミッシェルは軽く咳払いをした。
「わかりました、そうしましょう。」

ボルンで早めの夕食を済ませ、二人は日没前にきこり小屋へ到着した。
エル・フィルディンではよく見られるもので、特に所有者があるわけではない。
辺り一帯のきこりたちが共有している小屋である。
一夜の暖を取るために旅人が使うことも咎められていなかった。
「しばらく使われていないようですね。ほこりが積もっていますよ。」
ミッシェルは寝台の覆いをそっとつまみ上げた。
小屋の外に出てバタバタと布地を叩いている間に、アヴィンが戸棚の中にあった敷き布と毛布を寝台に掛けた。
簡素なものだが、アヴィンは柔らかなシーツや布団より、こういうものが好きなようだ。
困ったものだとミッシェルは思う。
だが今日のアヴィンは穏やかな様子だ。
ミッシェルが決めた宿へ泊まった時の、借りてきた猫のような硬い表情は見なくて済みそうだった。
こんな効用があるなら、たまにはアヴィンの好みに合わせるのも良いかもしれなかった。
小屋の扉を閉め、畳んだ覆い布を戸棚に押し込むと、ミッシェルは寝台の前で待っているアヴィンに向き合った。
「お待たせしました。」
「ああ。」
アヴィンの顔がほころぶ。
ミッシェルの顔にも笑みが浮かんだ。
「ただいま、アヴィン。」
町で交わした通り一遍の言葉ではなく、心から湧き出る言葉を告げる。
「待ちくたびれていたんじゃありませんか?」
ミッシェルが聞くと、アヴィンは照れ笑いをした。
「まあな。」
アヴィンはじっとミッシェルを見つめ、少しためらってから言った。
「そのローブ、取ってもいいか? なんだか旅支度みたいでイヤなんだ。」
「ああ、そうですね。」
ミッシェルが胸の留め金に手を掛けると、アヴィンがその手を押さえた。
「俺がやるよ。」
「え?」
思いがけない言葉にミッシェルはどきりとして手を引っ込めた。
アヴィンは慣れない手付きで留め金を外した。
肩でローブを押さえていた布が緩み、布地の重さも加わってどさりと床に落ちた。
すっと身体が軽くなった。
そして同時に、ミッシェルを縛っていた理性もその戒めを解いたのだった。

ミッシェルはアヴィンの肩に手を置いた。
アヴィンもミッシェルを見返した。
彼もまた、待ちわびている表情をしていた。
どちらからともなく身体を寄せ合い、二人は唇を重ねた。
触れ合う熱さが何より確かに長い空白の時間を埋めていった。
「お帰り、ミッシェル。」
わずかに唇が離れた時、アヴィンがささやいた。
「ああ!」
言葉ともため息とも付かぬ声を漏らし、ミッシェルはぎゅっとアヴィンを抱きしめた。

きこり小屋の寝台は、二人の重さにキーキーと悲鳴のような音を立てた。
想いを果たし、それでもなお離れ難くて、ミッシェルはアヴィンを抱いていた。
「今夜は帰らなくていいのか?」
アヴィンが聞いた。
「ええ。朝までここに。」
ミッシェルは答えた。
「ずっと、こうしていても良いでしょう?」
抱き寄せる腕に力をこめると、アヴィンも身体を押し付けてきた。
「ん、俺も一緒がいい。…いい夢、見られそうだ。」
幸せそうな呟きが胸元から聞こえた。
「おやおや、眠るつもりだったんですか?」
ミッシェルがあきれたように言い返すとアヴィンが真っ赤になった。
「まだ時間はたっぷりありますよ。あなたの希望でここに泊まったんですからね。満足させてくれなくては嫌ですよ。」
「なっ…!」
アヴィンが混乱するのを無視してミッシェルは言葉を続けた。
「楽しみましょうね、アヴィン。」
「…………」
しばらくの間硬直していたアヴィンは、意を決したように顔を上げ、ミッシェルを強く抱きしめた。
「望むところだ。」
挑戦的に言い放ったアヴィンは、勢いのままミッシェルに口付けた。
ミッシェルはそれを柔らかく受け止めると、再び湧き上がった感情に身を委ねたのだった。

2004.1.2


2004年の書き始めがこれで良いのでしょうか……。
ま、それはともかく。久しぶりに煩悩のまま筆が進みました(^^)。
オチが一歩間違うとエンドレスになってしまうので、切り時がむつかしいです。
アヴィンの逆襲は……まだまだ役不足のようですね(笑)。

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