Fanfiction 二次創作 封印の地|酒場
酒場
2 トーマスとアヴィン1
「トーマス、混ぜてくれよ。」
水夫たちの輪に入ったアヴィンは、一座の真ん中にいたトーマスにあいさつした。
「お、来たな。」
トーマスは嬉しそうにアヴィンを手招きし、自分の隣に座らせた。
「みんな、ちゃんと紹介されてない奴もあるだろう。俺の昔からの仲間の一人のアヴィンだ。
エル・フィルディンでも凄腕の冒険者だ。」
「よせよ、トーマス。」
「遠慮するのは弱い奴のする事だ。強い者はちゃんと名乗りをあげる。でもって、自分の手下は自分で守る。そういうもんだ。」
トーマスは自信たっぷりに言い放った。アヴィンはその強さに飲み込まれそうになる。
「どうぞ、アヴィンさん。」
横合いからコップが差し出される。それを受け取ると、今度はトーマスがなみなみと酒を注いでくれた。
「あんたは田舎町の冒険者で終わりゃしねえ。今は仕方ないかもしれないが、そのうち世界を知りたいと思うようになるさ。」
「ありがとう。」
アヴィンは礼を言って酒に口をつけた。ほんの一口含んだだけで、口の中がしびれるようだ。
しかし、周りの皆が注目している。アヴィンは目を閉じて、ぐいっと飲んだ。
「・・・!」
思わずむせ返る。周囲が笑いをこぼす。
「あんまり急くとよくないぜ。楽しく飲まなくっちゃな。」
「アヴィンさんたち、カヴァロで大立ち回りをしたんだって?フォルト君の仲間の別嬪さんが言ってたぜ。」
「あ、それ、俺も聞いた。ヌメロスの奴らを追い出したんだってな。」
水夫たちが待ちかねたように話をせがむ。
「俺も聞きたいな。隠密行動をしろって頼んでおいたのに、えらく派手にやってくれたんだってな。」
トーマスも言った。
「フォルトたちを助けたのは仕方なかったんだぜ? あれは放って置ける状況じゃなかったんだからな。」
アヴィンは言った。
「それから、まあ成り行きで、手伝う事になったんだ。俺たちだけじゃない。
カヴァロの町の人がみんな立ち上がったから開放出来たんだよ。」
「ヌメロスの木人兵、プラネトスII世号の大砲でぶっ飛ばしてやったとき、胸がすうっとしたぜ。」
「キャプテンの危機だってんで、みんな頭に血が上っててな。ありゃあ気持ちよかったなあ。」
幾つもの話が、その場に飛び交った。アヴィンは、問われれば答え、そうでなければ話の輪に加わって耳を傾けた。
水夫たちの好む話は大体決まっていて、リュトム島の戦いだの、
古株の水夫たちがもったいぶって披露するエメラルド海の決戦の話だのがそこここで語られていた。
杯が重なり、いつもより気持ちが軽くなったように感じ始めた頃、ぽんと肩を叩かれた。
「いつまでも戻ってこないんだから。」
そう言ったのはミッシェルだった。ミッシェルはアヴィンの隣に席を占めた。
たちまち、ミッシェルの前にも酒やらつまみやらが積み上げられる。
ミッシェルは皆に礼を言うと、アヴィンの背に腕を回し、ひそひそ話をするように顔を近づけた。
「ねえ、アヴィンさん。もうしばらく、こちらに滞在しませんか?」
「え?」
アヴィンは聞き間違えたのかと思った。
だが、アヴィンを見つめるミッシェルは、冗談を言っているような顔つきではなかった。ただ、顔色だけは朱に染まっていた。
「あのね、ミッシェルさん。ガガーブを越える準備が出来て、明日は出航だっていうのに、今頃何を言い出すんですか。」
「帰りたいですか?」
「そりゃあ。」
アヴィンの頬が赤くなる。故郷に家族を置いてきているのだ。長かった帰り道もここまでくれば、なつかしさもひとしおである。
「もう長いこと留守にしてしまったし。」
「そうですか。つれない人ですね。」
ミッシェルの返事にアヴィンは何と言い返したらよいかわからなくなってしまった。
周りにいる水夫たちも、聞き耳を立てているのがわかる。
「もしかして、ミッシェルさん酔ってます?」
「楽しくいただいていますよ。」
どうも会話がずれていた。アヴィンは助けを求めるように周りを見たが、誰も手を差し伸べてはくれなかった。
「なーにを二人っきりで話してるんだ?」
後ろから身を乗り出してきたトーマスが、アヴィンには救いの神のように見えた。
「トーマス、どうにかしてくれよ。」
「あん?」
「酔っ払ってるよ、ミッシェルさん。」
アヴィンが告げると、ミッシェルも黙ってはいない。
「飲め飲めって言ったのは、貴方ですよ、トーマス。それに、今日は何もかも忘れていいって、言いましたよね。」
しらふでは聞くことのない口調だった。トーマスはニヤニヤした。
「あの酒を飲んでるのか?何杯だ?・・・指5本? そりゃまた、珍しいな。気持ちよさそうだなあ、ラップ。」
「ええもう。これでアヴィンさんがここに残ってくれたら言うこと無しなのに・・・。」
ミッシェルがうっとりとした口調で言った。さすがにトーマスも眉をひそめる。
「ラップ。ガガーブを越えてアヴィンとマイルを国へ帰すんだろう?」
「明日の事じゃありません。いやな人だな、トーマス。せっかく楽しく飲んでいるんですから、水を差さないでくださいよ。」
「すげえ、ラップが出来上がってる…。」
トーマスがアヴィンに言った。どうするんですか?と、アヴィンは目線でトーマスに訴えた。
「ラップはあんたと水入らずがいいみたいだぜ。付き合ってやれよ。」
「ち、ちょっと!」
「相手は酔っ払いだったら。アヴィン、いつものラップだと思わなきゃいいんだ。適当に相づち打ってりゃ大丈夫だよ。」
アヴィンが青くなったのに目もくれず、トーマスは人垣に混ざって行ってしまった。
「どうしろっていうんだよ・・・。」
ニコニコと自分を見ているミッシェルを横にして、アヴィンは一気に酔いが覚めていた。