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Fanfiction 二次創作 封印の地|酒場

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酒場

3 マイルとルカ

「マイルさん。ここに座っていいですか?」
アヴィンもミッシェルも席を立ってしまって、一人になってしまったマイルの隣へ、副長のルカがやってきた。
「うん、どうぞ。」
「機関室に行っていたら、こんな時間になっちゃって。皆はもうすっかり出来上がっているから、つかまると大変なんですよ。」
ルカはほっとした様子で座り込んだ。
「強いお酒なのに、みんなたくさん飲んでいるね。」
「船に乗って一番驚いたかなぁ。こんなに強いお酒があるのもびっくりだけど、みんな強いんだもの。
ギアは工業の町でしょう、明日のことを考えると、とことん飲んじゃう人なんて限られているんですよ。
でもここは皆明日の事なんて考えないです。キャプテンなんか、まるで水みたいに飲んじゃって、全然つぶれたりしないんですよ。」
「そうみたいだね。ほら、アヴィンがあっちで飲んでるんだけどさ、全然かなわないね。」
「えっ!」
ルカは驚いてマイルの示した方を見た。
トーマスのいる同じテーブルに、顔を赤くしたアヴィンがいた。隣に座っているのはミッシェルだ。
トーマスの方はまるで酒なんか飲んでいないみたいで、顔色も変わらず、あっちこっちを歩き回っていた。
「うわあ、アヴィン義兄さん、度胸があるなぁ。」
「アヴィンの場合は、無鉄砲なんだと思うけど。酔いつぶれてみないと判らないんじゃないかな。」
マイルの解説にルカはうなづいた。
「うん。姉さんが気に入った人だからね。きっとそうだと思う。」
「ルカ君も少しは飲むでしょう? お酒、これしか残ってないけど。」
マイルは酒瓶に残った酒を注いでやった。コップに七分目といったところだ。
「これもずいぶん強いお酒ですよ。マイルさんが飲んでたんですか?」
ラベルを見て、ルカが言った。
「ううん。最初トーマスが僕達3人に注いでくれたんだけど、アヴィンはあっちへ行っちゃったし、僕は最初の一杯で十分だったから。」
「じゃ、残りを全部飲んじゃったのって・・・」
「ミッシェルさん。」
「ラップさん!?」
ルカが素っ頓狂な声をあげた。
「僕、あの人がそんなにお酒を飲むところ見たことないですよ。」
「そうなの? 大分いけるみたいだったけどな。」
マイルはミッシェルの飲みっぷりを思い出して言った。
「えーっ、信じられないなあ。」
ルカはアヴィンと一緒にいるミッシェルの方を見やった。二人は、なにやら話し込んでいた。
ミッシェルが、アヴィンに熱心に話し掛けているのを見て、ルカはなぜだか不安な気持ちがした。
「何を話しているんだろう…」
気になる様子でルカが言うと、マイルもアヴィンたちの方を見た。
「いつものミッシェルさんとちょっと違うね。」
「ええ。」
「何だか寂しそうだったんだけど…。あの人は寂しいなんて考えないかな。」
「ラップさんに悩み事なんか…」
ありはしない、と、ルカが答えようとしたときだった。

「酔ってなんかいませんってば!」
ろれつの回らない大声がして、二人は、いや、部屋にいた大部分の者が声の主に注目した。
しんとしてしまった人の輪の中心にいたのは、ミッシェルだった。
本人よりも、周囲のほうが唖然としていた。大体、そんな大声を出すような人だとは、ここにいる誰も思っていなかったのだから。
隣で一緒に注目されてしまったアヴィンがうろたえていた。
「いやですよ。私はガガーブになんか行きません!」
ミッシェルは周りなど全く目に入らず、唇を噛み、アヴィンを睨みつけていた。
今にも泣きそうに見えたのは、ルカの目の錯覚かもしれなかった。
「どうしてそうなるんだよ、ミッシェルさん。困るじゃないか…。」
アヴィンはすっかり翻弄されている。
「アヴィン。」
見かねたトーマスが助け舟を出した。天井を指差して見せる。アヴィンの顔がぱっと明るくなる。
「ミッシェルさん、甲板で風に当たってこよう。」
アヴィンはミッシェルの腕を取った。
「酔ってないったら、離してください。」
アヴィンは嫌がるミッシェルを抱え起こして、引きずるように連れ出した。
二人が去ると、部屋はまたざわざわとした雰囲気に包まれた。

「キャプテン。」
ルカは血相を変えて、トーマスに駆け寄った。
「一体、どうしちゃったんですか、ラップさん。」
「ああ? 見てのとおりだ。」
トーマスはおどけた顔で言った。
「あのラップが、5杯も酒をあおったんだよ! 完全に酔っちまってるんだ。」
よく通る声が、部屋全体に響いた。
「まあラップもこれで一人前だな。」
「キャプテン…。」
トーマスが、皆を安心させるためにわざと大声で言っているのがわかって、ルカは自分の不安を口にするのをやめた。
口をつぐんだルカに、トーマスはウインクした。
「アヴィンが何とかしてくれるさ。気にすんな。」
「はい・・・」
席に戻ってからも、ルカは元気がなさそうだった。
「心配しないの。ミッシェルさんは酔ってああ言っていただけでしょう?」
マイルはあまり気にしていないようだ。
「だけど、アヴィン義兄さんはラップさんの事、尊敬しているし…。少し、帰るのを遅らせるとか、約束しちゃわないかな。」
「大丈夫だよ。」
ルカの心配を吹き飛ばすようにマイルが言った。
「もし、アヴィンの気持ちがぐらついたって、君が『姉さんをよろしく。』って言えば、ちゃんと考え直してくれるよ。
…たぶん、きっとそんな事にはならないよ。」
「そう?」
「うん。信じなよ。」
マイルの言葉を、ルカは心強く感じた。さすがは親友だなあと思う。ルカは天井を見上げた。
『アヴィン義兄さんは、ちゃんとラップさんをなだめているかな…。』

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