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Fanfiction 二次創作 封印の地|酒場

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酒場

8 ルカとアヴィン

「あ、アヴィン義兄さん!」
階段を下りたところで声を掛けられる。反対側の部屋の前にルカがいた。アヴィンとマイルが客室を一つ使っているので、今ルカは、ミッシェルと同室である。
「ラップさん、もう眠っちゃったでしょうか?」
「ああ、たぶん。」
アヴィンは答えた。トーマスと話した時よりは、口調が軽い。からかわれる事も揚げ足を取られることもないとわかっているのはいい事だ。
「どうしたんだ?」
ルカが部屋に入るのをためらっている様子なので、アヴィンは理由を尋ねた。
「今日は機関室で寝ようかなって思って。あんなに酔っ払ったラップさん、はじめて見たし・・・。」
「それじゃあミッシェルさんに失礼じゃないか?」
アヴィンは言った。ルカはかぶりを振った。
「誰だって自分をどうしようもできない時ってありますよね。あのラップさんでも…。そんな時って、ひとりになりたいと思うんです。だから・・・。」
そういう配慮なのか。アヴィンは感心した。

「僕、やっぱり今日は機関室にハンモックを吊ります。」
「好きにするさ。でも、ミッシェルさんはそんな事を気にしないだろう。」
「いいえ。今まで一度もそういう事がなかっただけで、ラップさんだって、同じ人間なんですよ。僕たちと同じ。さっきのラップさん、見ていて怖かったですよ。ガガーブ越えがだめになっちゃうかと思いました。」
ルカの言葉にはっとする。
『自分はガガーブを越えない。貴方は家には帰らない。』
何度も同じ事を言っていたミッシェルの姿が脳裏に浮かぶ。酔いのせいだと思っていたが、あれはミッシェルの精一杯の抵抗だったのだろうか。
でも、たとえそうだとしても・・・。
「俺はちゃんと見晴らし小屋に帰るよ。」
アヴィンは義理の弟の顔を見て笑った。ルカがほっとした様子を見せた。
「良かった。安心しました。僕、今度は船体の修理をする予定だから、見晴らし小屋には行けないと思うんです。姉さんには悪いけど・・・。」
「元気にやってるって言っておくよ。」
「はい! じゃ、おやすみなさい!」
「お休み。」
ルカは階段を駆け下りていった。
アヴィンは自分の部屋を振り返り、それから思い切った顔でミッシェルの部屋の前に立った。

アヴィンはミッシェルの部屋のドアを開けた。ミッシェルは壁に向いて眠っていて、表情は伺えなかった。足音を立てないように寝台の側へ行く。
「アヴィンさん?」
眠っていると思っていたミッシェルに声を掛けられ、アヴィンはドキリとする。
「ああ。」
勢い込んで来たものの、何と声を掛けたら良いかわからない。ミッシェルは身体をねじってアヴィンを見た。しおれた顔をしていたが、目元はだいぶしっかりしていた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・さっきは、悪かった。俺、意地を張っていたな。」
無言の状況に耐えかねて、アヴィンは言った。ミッシェルがゆっくり起き上がった。
「私も、おかしかったですね。自分を止められなくて・・・。すみませんでした。」
一瞬視線が重なったが、ミッシェルのそれは、すぐ足元へ落ちていく。
「ルカは機関室で休むって言ってた。」
アヴィンは言った。
「しばらくの間、一緒にいてもいい。」
ミッシェルがはっとして顔を上げた。アヴィンはさりげなく視線をはずして言った。
「本当は・・・あなたの側に居場所があったら、俺、迷ってしまいそうだった。だからどうしてもうなずけなかった。今は、旅にあこがれている時じゃないんだ。」
「そう。・・・・・・あなたの大事な人たちには勝てないね。」
ミッシェルはアヴィンの手を取って、自分の隣へ座らせた。
「ありがとう・・・その言葉で十分だよ。」
「ミッシェルさんに不安な事があるなんて、俺は一度も思わなかった。みんなもそうだと思う。でも、そうじゃないんだな。あなたも、やっぱり人間なんだ。」
「アヴィン・・・。」
「逃げる訳じゃないけど、あなたの側には俺よりもっとあなたの事を心配して、守ってやろうとしてくれる人がいるよ。自分の生まれ故郷を捨てる覚悟の人が。」
「!!」
ミッシェルは驚きの表情でアヴィンを見た。アヴィンは頷いた。
「俺は、今は自分の国からあなたを手助けしたい。わかって欲しい、ミッシェルさん。」
「・・・そうですね。ありがとうアヴィン。」
二人はやっとうちとけた顔になった。

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