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Fanfiction 二次創作 封印の地|酒場

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酒場

9 マイルとアヴィン

「お帰り。遅かったね。」
やっとたどり着いた部屋では、マイルがまだ起きていた。アヴィンは疲れと眠気が一気に噴きだして、言葉もなく寝台に倒れこんだ。
「キャプテン・トーマスもルカ君も心配していたよ。ミッシェルさんはどうなったの?」
「部屋で休んでるよ。俺も寝る。」
すっきりとした顔でアヴィンは答えた。
「ちょっと待ちなよアヴィン。ねえ、そのままでいいから聞いて。」
アヴィンは頭だけをマイルの方に向けた。
「ねえ。まわりから、不安も悩みもないと思われている人だって、本当は心の中に不安を抱えているんじゃないかな。それで、自分では不安を消せなくなってしまった時に、誰かに打ち明けたい、わかってもらいたいって考えるんじゃないかな。」
「……そうだな。」
「うん。だから、そういう時はけんかしちゃ、ダメだよ。打ち明けられる人がいなくなったら、辛いことに立ち向かう勇気が出なくなっちゃうよ。アヴィン。ミッシェルさんはアヴィンに打ち明けたかったんじゃないの?」
「うん・・・。そうかもしれない。」
アヴィンは答えた。同じように心配をしてくれるマイルが嬉しかった。
「もっとも、アヴィンがこっちに引き止められちゃうんじゃ、困るけど。」
「何で知ってる?」
「ガガーブへ行きませんって、ミッシェルさんが叫んでいたじゃない。・・・アヴィンも大分酔っていたんだね。」
「全然頭が働かないんだ。・・・俺はちゃんと帰るよ。ミッシェルさんにも、そう言ってきた。」
「良かった。」
マイルはアヴィンの言葉を聞いて安心した表情を浮かべた。

「それとね、もう一つ聞いてもらいたい事があるんだ。」
マイルは改まって言った。
「?」
一体なんだろうとアヴィンは首をかしげる。
「本当は村へ帰ってから教えるつもりだったけど、僕は、帰ったらシャノンと一緒になるからね。」
「本当か?」
アヴィンがびっくり顔になる。それは大ニュースだ。
「この旅に来る前に、二人で話し合ったんだ。今度の旅を逃したら僕が旅に出られる時は二度と来ない。そうしたら僕は一生、果たせなかった旅にあこがれたまま終わらなきゃならない。そういう事を話したんだ。シャノンは僕の意見をわかってくれて、僕を後押ししてくれた。彼女は今まで、ずっとずっと待っていてくれたんだ。」
アヴィンは、はにかみながら話すマイルをまぶしそうに見ていた。マイルが押しかけ女房さながらにやって来たシャノンと、いつまでも一緒になりもせず、別れもしないのは、村では一番の悩みの種になっていた。ただでさえアヴィンが伴侶を得たので、次のカップルと注目されていた二人なのだ。6年…待つと言うにはあまりに長い日々だったはずだ。
「僕は、シャノンにとても辛い思いをさせてしまった。彼女みたいに気の強いと思われている人だって、心の中では不安だったり、さみしかったりしていたんだよ。でも、彼女は辛いことも隠さずに僕に話してくれた。だから、僕も、どうして待っていて欲しいのか話せたし、僕たちは支え合って来れたんだ。」
マイルはアヴィンを見た。
「アヴィンが先に家庭を作って、充実した暮らしをしているのが、うらやましかった事もあったよ。でも、自分の生き方は自分で納得出来るものでなくっちゃ。妥協したくなかったんだ。」
「マイル、長かったな。」
アヴィンが言った。
「俺の旅に付き合わせてしまって、あんな事になって・・・。俺たちが見晴らし小屋へ帰った後も、マイルの旅が終わっていない事は、様子を見ていればわかったよ。今度の旅が役に立ったなら俺も嬉しい。」
「これからは畑や動物相手の毎日だね。」
「すぐにもっとにぎやかになるさ。」
アヴィンの言葉に、マイルが照れた。

「ごめん、もう限界。お休み、マイル。」
「お休み、アヴィン。おつかれさま。」

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