ジュリオとフォルト
(From 英雄伝説III)
by 神無月裕也 さま
オルドスの大聖堂の階段を巡礼の旅人ジュリオとクリスは降りていた。
二人とも表情には不安が隠せない。
それもそうだろう。 彼らがオルドスの天の鏡で見た啓示はあまりにも重かったから。
一つの世界が滅ぶ時に現れるというラウアールの波。
それを阻止できるかどうかは、まさに二人の肩にのしかかったのだから。
ジュリオ「……」
クリス「ちょっとジュリオ、何暗い顔してるのよ。 そんなことじゃ、防げるものも防げなくなっちゃうわよ」
ジュリオ「だけど、僕たちのがんばりに世界が滅びちゃうかどうかかかってるんだもの…。
クリスは平気なの?」
クリス「そ、それは…私も…やっぱり…」
少し表情を沈ませるクリス。 やはり彼女も、気丈とはいえ、不安は隠せないようだ。
2階まで降りたとき、一人の老神官が二人に近寄ってきた。
昇ってきたとき、二人にパイプオルガンで曲を奏でてくれた、真実を司る神官・フォルトだ。
フォルト「おや、どうしたんだい?」
ジュリオ「う、うぅん、ちょっと…」
フォルト「おやおや、それじゃ私が二人が元気になる薬をあげよう。 ちょっと付き合わないかい?」
クリス「は、はい…」
ジュリオとクリスは、フォルトに連れられて、神殿区画にある家に立ち寄った。
フォルト「おーい、ウーナ、いるかい?」
フォルトに呼ばれて、一人の老婆が姿を表した。
ウーナ「はい、いますよ。 おや、これはかわいいお客さんですね。
旅に出たころの私たちを思い出しますね」
ジュリオ「旅?」
フォルト「まぁ、その話は後にすることにして、まずは薬をあげようかね。
なぁ、ウーナ」
ウーナ「そうですね。 ちょっと準備をしてきますから、待っててくださいね」
そういうとウーナは奥の部屋に引っ込んでいった。 そしてピッコロとキタラを取り出して戻ってくる。
フォルト「さぁさぁ、お立会い。 マクベイン一座の復活公演だよ」
そして、フォルトとウーナは演奏を始めた。 この曲目は…
ジュリオ「あ! この曲は…」
クリス「チャノムでトロバさんが弾いてた、『それみよ我が元気』!」
フォルトたちの奏でる曲に、ジュリオたちも気分が明るくなる。 やがて曲が終わった。
フォルト「どうだったね?」
ジュリオ「うん! とってもよかったよ!」
クリス「不安が解けて流れちゃったみたい」
フォルト「そうか。 それはよかった。 ラウアールの波の啓示を受けた人が現れたら、
不安を取り払うのに聞かせてあげようと、ウーナと決めていたんだよ。 ねぇウーナ」
ウーナ「えぇ」
ジュリオ「そうだったんですか、ありがとうフォルトさん」
クリス「でも、どうしてフォルトさんたちがこの曲を?」
クリスの質問に、フォルトとウーナは席について話し始めた。
フォルト「実は、あの曲は私の持ち歌だったんだよ」
ジュリオ「へぇ…」
フォルト「実は、私たちはもともとこのティラスイールの人間ではなかったんだよ。
南の大蛇の背骨を越えた先にある世界、ヴェルトルーナから来たんだ」
クリス「大蛇の背骨の先にも世界があったなんて…」
ウーナ「私たちは、二人と同じくらいの年のころ、そこで旅芸人として曲を弾いて回ってたんですよ」
ウーナも、懐かしそうに話す。
フォルト「思えば、最初の旅のころだよ。 私たちが、じいちゃんの夢だった曲を探しに巡業の旅に出たとき。
ちょうど今回みたいな大変なことに巻き込まれてね」
ジュリオ「えぇっ!? フォルトさんたちも?」
驚くジュリオ。
フォルト「あぁ。 一時は、世界が滅ぶ寸前までいったけど、みんなで力を合わせてその危機を乗り越えることが
できたんだ。 それから私は、オルテガ様の手伝いをするのに、その南の大地からこの世界に渡ってきたんだ」
クリス「そうだったんですか…」
フォルト「いいかい、二人とも。 自分を奮い立たせる勇気と、己の過ちを認められる心。
それさえあれば恐れるものは何もない。
このことを忘れなければ、かならず希望は開けるものだ。
これが、私がその旅を通して学んだことだよ」
ジュリオ「ありがとうございます。 なんか、希望が見えてきたような気がします」
クリス「私も。 今まではなんか薄暗いところを歩いてるみたいだったけど、少しだけ明るくなったみたいです」
それを聞いて、フォルトも笑顔を浮かべる。
フォルト「それはよかった。 さぁ、元気に行っておいで。
次に会ったときは、また楽しい曲を聞かせてあげるよ」
ジュリオとクリスも笑顔で返す。
ジュリオ「はい!」
クリス「行ってきます!」
二人は元気に、町区画の宿屋に歩いていった。 そのまぶしい姿を、フォルトは満足そうに見送るのだった…
FIN.
神無月裕也さんからいただいたSSです。
「白き魔女」プレイ中にオルドスへ到着して、無性に書きたくなったお話だそうです。
うんうん、わかりますよね。
フォルちゃんもウーナも素敵で、甘々で(笑)。
ちょっと元気を無くしたジュリオとクリスを元気付けるのには、うってつけの二人ですね。
神無月さん、ありがとうございました!
2003.6.5