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剣と想いの賢者

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(From 英雄伝説IV)by 神無月裕也さま

2004.2.26


ヴァルクド、エル・フィルディンの一大権威・バルドゥス教会の本拠である宗教都市である。
その中央に立つ大聖堂の一室にて。

「はぁ?」
「はぁ、ではない。聞こえなかったのか?
つんぼになるにはまだ若いぞ」

その一室に、25歳くらいの青年と、70前後ぐらいのあごひげをたくわえた老人が対峙している。

「いや、聞こえなかったわけではないんだが…。
ちょっと信じられないことだったからさ。もう一度聞かせてもらえるか、ガウェイン?」

青年にそう尋ねられた老人…バルドゥス教会最高顧問・『力の賢者』ガウェインは、
一つためいきをつくと先ほど言ったことばを繰り返した。

「アヴィンに俺の後を継いで、教会の最高顧問を引き継いではもらえないか、と言ったのだ」

青年、アヴィンは目を丸くしたまま呆然として何も答えない。
そして我に返ると。

「ちちちちょっと待ってくれ。 いきなり言われても困るって。
一体どういうことだよ」
「いや、俺ももうすぐ70だ。いつドゥルガーのお迎えが来てもおかしくはない年だ。
そのときになって、教会がもめたら困るからな。
今のうちに引き継ぎをしておこうと思ったのだ」

ガウェインにそう言われても、アヴィンははいわかりました、という気にはまだなれないようだった。
何しろ、最高顧問といえば、教団の中でも、かなり高い地位と、責任も重い役職だ。
それをいざ譲られるといっても、しり込みするのは当然だろう。

「だけど、俺はまだ25だぜ? 引き継ぐにはまだまだ未熟だって」
「そんなことはあるまい。 オクトゥムの封印と、神々の時代に終止符を打ったこと、
南の大地での闇の太陽に関わる事件での活躍。
どれをとっても、十分すぎるほどの功績ではないか。
教団内部では、お前を教団の高司祭に推薦してはどうかとの意見も出ているのだぞ」
「お、俺を教団の高司祭に……?」

アヴィンはまた、目を丸くして絶句した。
いつのまにか、教団の中で自分の評価は異常に高まっているらしい。
自分では、たいしたことをしたという意識はないのだが。

そこでガウェインがせきばらいをして、話の筋を元に戻す。

「それはともかくとしてだ。俺としてはぜひともお前に顧問職を引き継いでもらいたいのだ。
すぐ答えを出せとは言わんから、考えてみてくれぬか」

アヴィンはため息をついてうなずいた。

「……わかったよ。でも、あまり期待しないでくれよな」


……
………

そして……時と場所は流れて、ガウェインとの話から2日後、ウルト村の近くの見晴らし小屋。

「ただいま……」
「お帰り、アヴィン」
「あ、お帰りなさいお兄ちゃん。……あれ、どうしたの? なんか困った顔して」

悩みをありありと顔に浮かべて小屋に入ってきたアヴィンを、黒髪の女性と、赤い髪の女性が出迎える。

黒髪の女性は、アヴィンの妻のルティス、赤い髪の女性は、彼の妹のアイメルである。

「アイメル、来ていたのか。修道院のほうはどうしたんだ?」

アイメルは修道女として、ニューボルンの近くのベネキア修道院で住み込みで働いているのだ。
おつとめが忙しいらしく、行事やお祭りがあるときぐらいしか、ここには戻ってこない。

「うん。ウルト村にお使いがあったから寄ってみたの。
それで、どうしたの?」
「本当、いかにも『困ったなぁ』って顔をして」
「いや、実はさ……」

悩みも、多くの人に共有してもらえば、たやすく解決するかもしれない。
心の一部でそう思いながら、アヴィンはルティスとアイメルに、ガウェインとの話を話してみることにした。

「そう。でも、賢者ガウェインも、もう高齢だもの。
誰かに職を引き継いでほしいと思うのも無理はないと思うわ」
「そんなものか?」
「そんなものよ」

ルティスにそうきっぱり言われると、なんか納得してしまいそうになるが、
やはりアヴィンは今ひとつ思い切れないようである。

「だけど、俺が教会の最高顧問だなんて…。勤めきれるとは思わないよ」

アヴィンの言葉にこたえたのはアイメルだ。

「そんなことないよ。お兄ちゃんは優しいし、正義感や責任感はあるし、
最高顧問になっても、ちゃんとやっていけると思う」
「そういわれると、なんかくすぐったいぜ。
俺としては、別にそんな感じはしないと思ってるんだけどな…」

そう言って、アヴィンはふと立ち上がった?

「お兄ちゃん?」
「アヴィン?」

気を悪くしてしまったのかと思われたらしい。
アヴィンは笑顔を作ると答えた。

「ちょっとウルト村に降りて、マイルとも相談してみるよ」
「そう、言ってらっしゃい」
「マイルさんに聞いても、同じ答えが返ってくると思うんだけどなぁ…」

最後のアイメルのつぶやきは聞かなかったことにして、アヴィンはウルト村へと続く坂を降りていった。


……
………

「はぁ…どうしたもんだろうな」

見晴らし小屋の寝室でアヴィンは自分のベッドに寝そべりながらまだ悩んでいた。

ウルト村に行って、彼の親友、マイルに相談してみたのだが、やはり似たような答えしか返ってこなかったのだ。
マイルいわく。

「ガウェインさんの言うことはもっともだよ、アヴィン。
それに、最高顧問なんて役職、君以外に誰ができるというんだい?」

マイルにまでそう言われると、やはり引き受けざるを得ないかなと思えてくるが、
いざそうなると、どうしても腰がひけてしまうような気がする。
最高顧問なんていう役職は、魔法大学校のクラス委員長をするようなものとは違うのだ。
……そんなことを言ったら、妹を探す旅の後、魔法大学校のクラス委員長を実際につとめた、
今は魔法大学校の講師をしているラエルに怒られそうだが。

……明日にでも、ガウェインが『冗談だ』と言ってこないかな…?
そんなことを思っている自分が心のどこかにいる。

アヴィンがそんな葛藤を抱えながら布団にもぐりこんでいると、寝室にルティスが入ってきた。

「まだ悩んでるの?」
「あぁ……」

ルティスはアヴィンと同じベッドに入ると話し掛けてきた。

「ねぇ、アヴィン。私思うんだけど……」
「ん、なんだ?」
「賢者ガウェインがアヴィンに、最高顧問の引継ぎをお願いしたのは、
自分の年齢のせいだけじゃないと思うの」
「どういうことだ?」
「うん。きっと賢者ガウェインは、エル・フィルディンに、
若い風を吹き込みたいと願っているんじゃないかしら?」
「若い風?」
「そう。神々の時代が終わり、異界の問題が発覚し、今、この世界は新しい時代に入ろうとしているわ。
賢者ガウェインは、そうした時代に、
あなたのような若い世代の力や想いを吹き込みたいと思っているんじゃないのかしら?
……アヴィン、十数年前の冒険の最後に、ドゥルガーが言った言葉を覚えてる?」
「あぁ。人が持つ熱い想いや情熱…朱紅い雫は、人々の間に落ちることで、
運命を揺り動かすほど大きな流れになるっていってたよな」
「そう。きっとガウェインは、新たな世代の…アヴィンの朱紅い雫が教会という水面に落ちることで、
バルドゥス教会……そしてエル・フィルディンを新時代にふさわしい、
良い方向に向かう流れに乗せようとしてるんじゃないかって思うの。
そしてそれに誘発されて、この世界の若い人たちの朱紅い雫が次々と世界という水面に落ちて、
世界がより良く新しい世界へと変わっていく流れをさらに大きくするように。
だから、アヴィンが最高顧問を引き受けるのは、あなたの大切な義務だと思うんだけど……違うかしら?」

ルティスの言葉を、アヴィンは噛み締めるように考えた。
それから少しして笑顔を浮かべる。

「そうだよな。ルティスの言う通りだ。これは俺に課せられた大切な義務……。
いや、俺の新たな道なのに違いないよな。
責任重大だけど、あえてやってみないとな」
「その調子よ。でも、あまり短気になったらだめよ」
「ちぇっ、人がせっかくその気になってるのに…でも、ありがとう、ルティス」

そう言って、アヴィンは傍らで横になっているルティスの額にキスをした。


……
………

そして、再びヴァルクドの大聖堂。

その礼拝堂には、最高導師クロワール、そして彼と向かい合うように、アヴィンとガウェインが立っている。
さらにその後ろには、ルティスやアイメル、マイルをはじめ、かつて十数年前の旅で出会った仲間たち、
そして多くの人々が立っている。

クロワールは、傍らから最高顧問の役職をあらわす、バルドゥスの紋章が描かれた帽子を取り出した。
そして荘厳にアヴィンに告げる。

「……アヴィンよ、そなたにバルドゥス教会最高顧問の役職、そして『剣と想いの賢者』の称号を与える」
「……謹んで拝命いたします」

そう言ってひざまずくアヴィンに、クロワールは先ほどの帽子をかぶせる。
そしてアヴィンが立ち上がると、彼に優しげな笑顔を向けて語りかけてくる。

「これから、教会……いや、エル・フィルディンのために力を尽くしてくれ。期待しておるぞ」
「……はい!」

クロワールの言葉に力強くうなずくアヴィン。
ガウェインはアヴィンの腕をあげると力強く宣言した。

「皆の者、『剣と想いの賢者』アヴィンを祝福してやってくれ。
そして……エル・フィルディンの新時代にも」

わあああぁぁぁぁぁ……。

大聖堂、いやヴァルクド全体に、人々の歓喜の声がこだました。

……ガガーブ暦944年。 エル・フィルディン。
いや、ガガーブと大蛇の背骨によって分かたれた3つの大地の世界は、新たな時代を迎えようとしていた……。

Fin


あとがき

今回はエル・フィルディンの話を変えてみました。
あれだけの功績をあげたアヴィンですから、きっと教会の顧問を推薦されてもおかしくはないかな、と思いまして。
あと、突然重責をふられたアヴィンがおろおろしたり迷ったりするのも面白いかなとも思ったりしました。

寝室のシーンで、アヴィンとルティスが同じベッドで寝るというのは、ちょっと暴走させすぎのような気もしましたが…
まぁ、いいとしましょう。
同じベッドで寝るのは、若い夫婦の特権ですし。
あのあと、二人が何をしたのかは想像にお任せします

あと、バルドゥス教会ですが……うーん、まぁ時代背景から言えばなくなってもおかしくはないですが、
人々の心のよりどころとして残ってるという僕的設定です。

あと、アイメルは、あれだけ信心深い(98版では、本当に優等生でしたから)ので、
きっとベネキアで修道女として働いているだろうということで。
でもやっぱりお兄ちゃんっ子。というか、お兄ちゃんっ子じゃないアイメルなんてアイメルじゃないやいっ(笑


三度、神無月裕也さんからSSをいただきました!
今回もまた管理人のツボを突きまくりのお話で、ちょうど忙しかった時に届いたものですから、つかの間の息抜きに、 繰り返し読ませていただきました。

アイメルは、98版を遊んだあとでは、修道院で働くとか、ディナーケン様の館で働くとか(だってほら、シャノンがマイルの所へ来ちゃいますから!)したらいいな~と思っていました。でもってアヴィンはチブリ村方面への仕事ばかりを引き受けたがるとか(笑)。

アヴィンとルティスは………かわいーじゃないですか(笑)。

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