Fanfiction 二次創作 封印の地|冒険者のバカンス
冒険者のバカンス
-再会- 前編
「ジゼルさん、アヴィンは?」
夕刻、やっと自宅へ戻って来たミッシェルは、開口一番そう尋ねた。
「二階にいらっしゃいますよ。」
台所から出て来たジゼルは、珍しいものを見るような顔をした。
「すぐお食事の支度をしますから、降りてきてくださいね。」
「ええ、ありがとう。」
ミッシェルは階段の上から答えた。
「ただいま、アヴィン。」
そっとドアを開けると、ベッドに横になっているアヴィンの姿が目に入った。
声が聞こえたのか、身じろぎをする。
ミッシェルはベッドに歩み寄り、アヴィンの表情を伺えるところで、そっと腰をおろした。
「…ミッシェル、さん?」
アヴィンがつぶやいた。
眠そうな声で、どうやら寝入りばなを起こしてしまったようだった。
「遅くなってしまったね。」
ミッシェルは言った。
「それに、片付けもさせてしまって…。」
布団が見えないくらい積み上げられていた本は、すっかり書棚に戻されていた。
ミッシェルのベッドの方には開いたままの本が何冊も残っていたが、それらはすぐに片付けられない、調べ物の本なのだった。
「いや、押し掛けたのは俺だし。」
アヴィンがミッシェルを見上げて言った。
ミッシェルは静かに首を振り、片手をアヴィンの顔の横についた。
そうしてまっすぐに見下ろすと、アヴィンの淡い緑色の瞳にミッシェルの姿が映りこんだ。
そのままどれくらい見詰め合っていただろうか。
「アヴィン……。」
小さく息を吐くようにつぶやくと、ミッシェルはゆっくりアヴィンの体に倒れこんだ。
存在を確かめるように何度も胸板に頬を摺り寄せる。
「ああ、本当にアヴィンだ。」
感極まった声が漏れる。
「…ミッシェルさん…。」
アヴィンが照れくさそうに、だがそれ以上に嬉しそうに、ミッシェルの肩を抱きしめた。
「よかった…変わってないんだな。」
「変わるものですか。」
ミッシェルは顔を上げてアヴィンを見つめた。
アヴィンだけに向けてくれる、素直に感情を伝える表情だった。
「ああ…。」
アヴィンは嬉しく、同時に切なかった。
今朝オルドスに着いてから、感情のままに振舞うミッシェルを見ることはなかった。
すべて昔のまま、思い出の中と同じだった。
ミッシェルはこの街でも、皆が頼りにする、中心となる存在なのだった。
アヴィンは腕を伸ばし、ミッシェルの両頬に手を当てた。
「俺、ミッシェルさんが呼んでくれたと思っていたからさ。違うってわかって、自信をなくしてたんだ。」
ミッシェルはじっとアヴィンを見ている。
「俺のこと、迷惑じゃないよな。」
真剣な顔でアヴィンは尋ねた。
「ええ、もちろん。」
ミッシェルは頬が緩むのを感じた。
「帰したくないくらい、歓迎していますよ。」
アヴィンの表情が安堵したものに変わった。
その様子を目に収めると、ミッシェルは軽いキスをアヴィンの額に落とした。
「離さないよ。」
ささやき声も、間近に聞くとじんと耳の奥に響いてくる。
「ミッシェル!」
アヴィンは夢中でミッシェルに抱きついていった。
「オルテガ様、お食事の支度が出来てますよ。」
階下から、ジゼルの困ったような声が聞こえてきた。
「おっと、いけない。」
ミッシェルははっとして我に返った。
アヴィンもとっさに腕を引っ込めた。
「食事に呼びに来たんでした。」
ミッシェルはアヴィンの腕を取って起き上がらせた。
「ジゼルの料理はなかなか良いですよ。行きましょう。」
「ああ。」
アヴィンはちょっと残念そうな顔をして立ち上がった。