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Fanfiction 二次創作 封印の地|冒険者のバカンス

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冒険者のバカンス

-再会- 後編

ジゼルの料理は美味しかった。
だがそれ以上に、彼女の慎ましい振る舞いがアヴィンの気持ちを和ませてくれた。
ミッシェルがかいつまんで話したエル・フィルディンでの出会いについて、彼女は、それ以上のことを二人に聞こうとしなかったのだ。
それはアヴィンには有難いことだったし、ミッシェルの側にいる人物としても、申し分ない資質と思えたのだった。
食事が終わると、ジゼルは軽い酒と食べ物を盆に載せてアヴィンに持たせてくれた。


「どこに置こう。」
アヴィンは盆を持ったまま部屋をぐるっと見渡した。
「ああ、とりあえずここに置いて。」
ミッシェルは机の上を占領している本を一冊取り上げた。
「サンキュ。」
アヴィンは申し訳程度に空いた隙間へ盆を置いた。
「ジゼルさんて、控えめな人だな。」
アヴィンが言うとミッシェルは一瞬おどけて見せた。
「必要な時意外は立ち入ってこない方ですよ。でも、いざとなったら控えめなんてとてもとても。」
ミッシェルは、手に持った本を意味ありげに見た。
「ああ、昼間の剣幕は見事なもんだったな。ミッシェルさんが敵わない人がいるなんて驚いたよ。」
アヴィンがにやっと笑うと、ミッシェルが言い返した。
「フィルディンへ帰っても、ラエルさんに言ってはダメですよ。」
「ああ、黙ってるよ。」
アヴィンは笑って請合った。
「あいつ、ミッシェルさんがライバルだと思ってるもんな。聞いたら鼻を高くしそうだ。でも、ミッシェルさんでもそういう話は聞かせたくないんだな。」
そう言ってミッシェルを見たアヴィンは、息を呑んだ。
ミッシェルは口を真一文字に結び、真剣なまなざしでアヴィンを見ていた。
「…どうしたんだ?」
不安な面持ちでアヴィンは尋ねた。
「やはり、帰るんですね。」
ミッシェルは感情を押さえ込むように声を絞り出した。
「え…、それは……。」
アヴィンは冷水を浴びせかけられたような気持ちになった。何か言おうとしても、口がこわばって言葉にならなかった。

ミッシェルはゆっくり首を振った。
「言い方がまずかったですね。責めているんじゃないんです。オルドスの門をくぐって来るあなたを見たとき、つい、移り住むつもりで来てくれたのかと思ってしまったものですから。」
ミッシェルはアヴィンと向かい合い、アヴィンの手を取って言った。
「帰るのでも構わない。私は、あなたがここに来てくれた事が嬉しくてたまらないんです。」
「すまない、わがままで。」
アヴィンはうつむいた。
「あなたの生活を大事にしてくれて良いんですよ。私も自分の事にしか手が回らない生活をしているし。」
ミッシェルはアヴィンの背に腕を回した。
包み込むようにそっと抱きしめて、ミッシェルはささやいた。
「ねえ、アヴィン。こうして再会出来たのは、それぞれの道を一生懸命たどってきた私たちへのご褒美じゃないですか?」
「ミッシェル……。」
アヴィンが顔を上げた。
「短い時間です。大事にしたい。少しでも長く、あなたと一緒にいたいです。」
「俺も、ミッシェルといたい。」
アヴィンが言った。言葉が震えていた。
「なんだか、素直ですね。」
ミッシェルが言った。
「さっきから、ずっと我慢しているんだ。」
アヴィンはミッシェルを見つめて言った。
顔を真っ赤にし、気恥ずかしそうだったが、その様子はアヴィンらしいものだった。
「本当に、素直だね。」
ミッシェルは驚いたように言って、アヴィンの耳元に唇を寄せた。
「止められないかもしれないよ。」
「構うもんか。」
アヴィンが言い返した。
ミッシェルの頭を両手で抱き、頬をすり寄せて、アヴィンもまたミッシェルの耳元に言葉を送った。
「…欲しい。」
「ああ!」
抱きあう腕に力がこもった。
聖都の夜は始まったばかりだった。

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