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冒険者のバカンス

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-13-

ひんやりした朝の空気が流れる中、オルドスの大門に人が集まっていた。
アルフレッドとモリスンがアンビッシュへ、そしてアヴィンがテュエールへ向かって旅立つ日だった。
一緒に国へ帰る使節と兵隊は、すでに並んでアルフレッドを待っていた。
アルフレッドは、その朝やっと謹慎を解かれたトランスとクレズに、別れの挨拶をしているところだった。
「アルフ、アンビッシュの王子だったのか。」
クレズがまぶしそうにアルフレッドを見た。
修行中の服装と違い、今日のアルフレッドは王家ゆかりの服を身に付けていた。
「無用の混乱を避けるために身元を伏せていたんだ。申し訳ない。」
アルフレッドが言った。
「謝らないでくれよ。俺たちのせいで大変な事になるところだった。ごめん。」
トランスが頭を下げた。
「よしてくれよ。一緒に学んだことはとても有意義だった。いい思い出が出来たよ。」
アルフレッドは言った。
「僕たちも忘れないよ。元気でな。」
「またきっと会おうぜ。」
「うん。二人も元気で。オルドスの発展を祈ってる。」
三人は固く握手をした。

「そろそろ参りましょうか。」
モリスンが言った。
「ああ。」
アルフレッドはオルテガやデンケン、それにアヴィンたちのいるところへ向かった。
オルテガとデンケンが、アルフレッドに向かい合った。
「お見送りありがとうございます。」
「道中お気を付けて。オルドスで過ごされた日々が、貴方の糧になれば幸いです。」
デンケンが目を細めて言った。
「はい。きっと僕の手助けになってくれるものと思います。」
アルフレッドは言った。
「オルテガ様。」
アルフレッドは親愛を込めて呼びかけた。
「次にお会いするのは、多分オルドスが開かれる日でしょう。その日を楽しみにしています。」
アルフレッドの言葉に、オルテガは笑みをこぼした。
「ありがとう。貴方も精進してください。」
アルフレッドの差し出した手を、オルテガは包むように握り返した。

「アヴィンさん。」
次にアルフレッドはアヴィンに呼びかけた。
「ん?」
自分に声が掛かると思っていなかったアヴィンは何事かとアルフレッドを見た。
「帰る前にアンビッシュへ立ち寄りませんか。貴方の冒険譚を聞きそびれてしまいました。」
茶目っ気を出して言ったアルフレッドに、アヴィンは笑って首を振った。
「テュエールで船長が待ってるからな。それに、冒険は自分で作るものだ。若い頃には尚更な。ここの修行所には鏡の祠の冒険譚があるらしいぞ。」
アヴィンが言うと、アルフレッドはつられて笑った。
「わかりました。無理を言ってごめんなさい。アヴィンさんも、お元気で。」
「ああ。頑張れよ。」
二人は握手をして別れた。
「では参ります。皆さん、さようなら。」
そこにいる一同に、アルフレッドは一礼した。
兵が隊列の中央に二人を案内し、それから小さな行列は大門を出て行った。
トランスとクレズが、門のところまで二人を見送った。


「さて、俺も行くよ。」
アヴィンがオルテガに告げた。
「手紙の事、よろしく頼みます。」
オルテガが言った。
アヴィンは懐を軽く叩いた。
「承知した。ヴァルクドも手助けしてくれるだろう。俺も口添えしてみるよ。」
「お願いします。」
オルテガの書いた手紙は予想より多く、エル・フィルディンの知古に助言や協力を求めていた。中でもオルドスの仕組みの元となったヴァルクド神殿に宛てては、助言と、研修受け入れの願いが書かれていた。
「ミッシェルさんやデンケンさんが頑張っているのを見たからな。手伝える事は俺も頑張るよ。」
「アヴィンさん、またオルドスを訪れてくださいね。」
デンケンが手を差し伸べた。
「ありがとう。」
アヴィンはその手を取った。

「アヴィンさん!」
大門から戻ってきたトランスとクレズが、名残惜しそうにアヴィンを見た。
「もう迷惑掛けるんじゃないぞ。」
アヴィンは言った。
「反省してます。」
しおらしくクレズが頷いた。
「いつかガガーブを飛べるようになって、そちらに行きますよ。」
トランスが負けず嫌いな性格を発揮して言った。
「そういう事は周りに迷惑を掛けなくなってから言うもんだ。」
アヴィンがトランスの額を軽く小突くと、トランスは肩をすくめておどけて見せた。

「アヴィン。」
オルテガが手を差し出した。
アヴィンはその手を固く握り返した。
「いろいろとありがとう。皆によろしく。」
オルテガが言った。
「ああ。いい骨休みになったよ。元気で、これからも頑張ってくれ。」
アヴィンは答えた。
「じゃあな、ミッシェルさん。」
くるりときびすを返すと、アヴィンは一人大門を抜けて去って行った。


「なんだか寂しくなりますな。」
デンケンがぽつりと言った。
「まだまだ、これからですよ。」
オルテガが意味ありげに言った。
「トランス、クレズ。」
オルテガは二人を呼び寄せた。
「あなたたちには、私の家の書斎の整理をしてもらいます。」
「えっ!」
トランスがあからさまに嫌そうな顔をした。
「オルテガ様、二人の罰は謹慎で終わったのでは……。」
事前に知らされていなかったデンケンが驚いて言った。
オルテガは心配するなと首を振った。
「書斎にはティラスイールの五つのシャリネについての文献があります。あなたたちでそれを整理し、シャリネに関する疑問を見つけ、解決して欲しいのです。」
「ええっ!」
クレズが目を輝かせた。
「今まで調べた事は書き記してあります。それを参考にするもよし、自分の仮説を立てるもよし。文献で調べきれない事が溜まったら、実際にシャリネに行って調べてもらうつもりです。」
「ほ、本当ですか!」
今度はトランスが興奮する番だった。
「これは興味本位でなく、オルドスの未来のための大事な調査です。頼めますか。」
オルテガは二人に聞いた。
「もちろんです。」
「やらせてください!」
二人は異口同音に答えた。
「よろしい。では今から、あなたたちは私の元で働くのです。厳しくしますよ。」
「はいっ!」
二人は大喜びだった。
走るようにしてオルテガの家に向かう二人を、オルテガとデンケンは楽しそうに見送った。
「…ひょっとして、私の長年の苦労の種は取り払われたんですかな。」
デンケンが少々浮かれた口調で言った。
オルテガは苦笑した。
「これで貴方には、国のまつりごとに専念していただけます。それに、あれはもう苦労の種ではないよ。オルドスの新しい神官の誕生です。」
オルテガの目が、小さくなっていく二人を見つめた。


ふとオルテガは振り返った。
大門に行き交う人はなく、心地よい風が吹き込むばかりだった。
そのひやりとした感触に新しい季節のさきがけを感じ、オルテガは風の渡るオルドスの空を見上げた。

終  2004.8.16

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