Junkkits

冒険者のバカンス

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間もなく、オルドスから応援と医者が駆けつけ、トランスは町に運ばれた。
一緒にアンビッシュの使節が血相を変えてやって来て、アルフレッドとモリスンの無事を見ると、一転文句を連ねはじめた。
「ご心配を掛けて申し訳ありませんでした。」
アルフレッドは神妙に頭を下げた。
「この事はお父上に報告せねばなりません。」
使節の主張にも、アルフレッドは異議を唱えなかった。
「覚悟しています。」
いっそ落ち着き払って答える姿に、使節は毒を抜かれたらしい。
「そ、それならばよろしいのです。幸いひどいお怪我もないようですしな。」
「この度は監督の不行き届きでご心配をおかけしました。」
オルテガが使節に声を掛けた。
「後ほど改めて謝罪させていただきますが、ひとまず町へ戻りませんか。アルフレッド様たちに、事情もお伺いしたいですし。」
オルテガに嫌みの一つも言い出しそうな使節をさえぎり、アルフレッドが答えた。
「わかりました、戻りましょう。」


夜遅くまで、修行所の奥では慌ただしい時間が過ぎていた。
怪我をしたトランスは回復魔法の使い手に預けられた。
オルテガたちはアルフレッドとモリスン、それに落ち着きを取り戻したクレズから事情を聞いた。
鏡の予言に関して言えば、アルフレッドたちの期待感は頭の痛い問題だった。
現在のティラスイールに鏡の予言を見て回る「巡礼」はごくわずかしか残っておらず、それは消えかかった伝承なのだった。
今回のことで鏡の存在が意識されるようになれば、同じように鏡を見たいと考える者が出てくると思われた。
「鏡が実際何を映し出しているのか。それをひとくくりに予言と呼んでしまうのは、正しくないと思うのですよ。」
オルテガは事の処理にあたった神官たちを前に言った。
「鏡についても魔女の巡礼についても、不明な点が多すぎます。安易に見せるべきではないでしょう。」
「各地の鏡についても調べてみるべきかも知れませんね。」
「オルドスの鏡も、見張りを立てておくべきでしょう。」
神官たちは差し当たって見張りを置くことを決めた。
後の事はオルテガに一任し、この件は棚上げとなった。

オルテガは、トランスとクレズに当分自室での謹慎を言い渡した。
アルフレッドとモリスンについては、元から来ていた国元の帰国要請を受け入れることとなった。
「僕の考えが浅かったばかりに、多くの方に迷惑を掛けてしまいました。」
アルフレッドはオルテガに言った。
「僕が鏡の予言などに飛びつかず、町を抜け出すことの危険を考えていたら、今度のことは防げたのです。なのに実際は、オルドスに取り返しの付かない迷惑を掛けてしまうところでした。」
アルフレッドの反省は自分の心に向かっていた。
「自分の気持ちに打ち勝ち、物事を正しく見つめられるようにならなくてはなりません。それにはやはり、父の側にいて学ぶことが大きいように思います。」
迷いを抜けたアルフレッドの言葉にオルテガは頷いた。
「いずれ貴方のお国に教えていただくことも増えるでしょう。良い王になってください、アルフレッド。」
「そんな、勿体ない。」
アルフレッドが謙遜した。
「帰国の日程が決まったらお知らせください。」
オルテガは頬を紅潮させる若者を穏やかに見つめた。
「はい、必ず。」


夜も更けて家に戻ったオルテガは、今日のもう一人の立役者に迎えられた。
「まだ休んでいなかったんですか。」
オルテガが問うとアヴィンは笑った。
「久しぶりに戦ったら、何だか寝付けなくてな。」
アヴィンは火酒をちびちびと飲んでいた。
「今日は助かりました。三人守るとなると、魔獣退治まで手が回りませんからね。」
オルテガは自分にも火酒を注いだ。
「彼ら、鏡の予言を見たかったんだってな。」
アヴィンが聞いた。
「もう噂が伝わっているんですか。」
オルテガは逆に尋ねた。
「夕方ジゼルに聞いたんだ。町中に伝わっているんじゃないか。」
アヴィンが答えるとオルテガは嘆息した。
「祠に見張りを置くことにして正解でした。好奇心を出す者がいなければよいが。」

「鏡の予言って、昔、俺が見たようなものだろう?」
アヴィンが言った。
「ええ、そうです。」
「あれは、見たらそれですべて解決するような、単純なものじゃないだろう。」
アヴィンは思い出すように言った。
「仰るとおりです。どちらかと言えば、予言は抽象的な物が多い。受け止める者が予言を鵜呑みにして、自分で考えることをやめてしまってはいけないのです。」
オルテガは部屋に積まれたおびただしい書物を見やった。
「古文書を開いていては埒が明かない。」
そのつぶやきは、すぐにでも自分が飛んでいきたいと言っているようだった。
オルテガは一口火酒を含んだ。
アヴィンはオルテガの苛立ちを指摘するのはやめた。
ここにはオルドスの秩序があり、オルテガを補佐する人々も大勢いる。
そのことが十分にわかって、アヴィンは自分を一歩外に置くことをよしとしたのである。
「俺はもうしばらくしたら、予定通りテュエールに向かうつもりだ。ルーレや魔法大学校に伝言があったら運ぶよ。」
アヴィンはオルテガに告げた。
「ああ、ありがとう。でも、まだしばらくは忙しいな。手紙を書くまで出発を待ってもらってもいいですか。」
オルテガが尋ねた。アヴィンは頷いた。
「構わないよ。僧兵の訓練には終わりがないからな。」
アヴィンが言うとオルテガの目元が笑った。

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