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カヴァロ解放

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day11-4

パルマン隊の四人は、ヌメロス兵を追って街道をひた走っていた。
姿を見られないよう、間隔を開けての追跡だった。
本当はワリスたちを追い抜き、先に街を出ていったゼノン司令に追い付きたいのだ。
だが街道は一本道で、先んじるためには横の崖道へ分け入るか、ワリスたちを突破する必要があった。
崖道は、大変険しい道なき道だった。
とてもワリスたちを追い抜いて先に沼地へ入ることなど出来そうにない。
それに、相手もたびたび振り返って、こちらの様子を伺っていた。
おそらく追跡には気づいているだろうし、再びぶつかるのは、時間の問題だった。

「もうそろそろ沼地だな。」
グレイがつぶやいた。
パルマン隊の四人は、一時期沼地の中にキャンプを張っていたため、土地勘がある。
「連中もゼノン司令の部隊も、まっすぐ沼地へ向かっているな。」
ロッコが言った。
夕べ降った雨は、この辺りでは比較的強かったらしい。
土は柔らかくなっていて、先にここを通った者の足跡をはっきりと残していた。
「沼地の先の海岸まで行ったのかな。」
ラテルがつぶやいた。
「おそらくそうだろう。ボートで海上と連絡を取り合っているんじゃないか。カヴァロから退却したとなれば、いずれ船に引き上げていくだろうしな。」
ロッコが清々した様子で言った。
「ゼノン司令が連れていたのが五人、ワリスと一緒にいるのが十数人。四人で相手をするにはちょっと荷が重いな。」
グレイは戦いの心配をする。
「ぶつかる気はないよ。連中の動きを確認したいだけさ。」
ロッコが答えるとグレイは肩をすくめた。
「あっちもその気ならいいけどな。」

四人の足並みが止まったのは、いよいよ沼地に入る所だった。
「連中、沼地の入口を塞いで止まったぞ。」
ドルクが前方の様子を伺って言った。
「あっ、二,三人沼地の奥へ走っていきますよ。ゼノン司令に伝令でしょうか。」
ラテルが前方を覗き込んで言った。
「カヴァロが陥ちた事が知れちまうな。」
グレイが苦々しく言った。
ロッコが唇を噛んだ。
そのときだった。
「やい、裏切り者の遊撃隊!隠れてないで、出てきやがれ!」
明らかに挑発とわかるワリスの声が、沼地の入口から聞こえてきた。


アヴィンとマイルは、街道へ出てから走りつづけた。
ゼノン司令とその護衛に逃げられてから、だいぶ時間が経っていた。
パルマン隊と逃げ出したヌメロス兵は、まだそんなに遠くへ行ってない筈だった。
一刻も早くロッコたちと合流し、今後の対策を練りたかった。
じっと押し黙ったマイルは、険しい横顔をしていた。
もし予想が当たっているなら、この先の道に木人兵部隊が伏せてあるかも知れないのだ。
『それとも、海上からかな?』
図体のかさばる木人兵を、街道を避けて移動させるのは大変そうだ。
ひょっとしたら、沼地に自軍の艦船を呼び寄せているかもしれない。
「どっちにしても、早く実際のところを把握して、対策を取らなくちゃ。」
マイルは小さくつぶやいた。
「何だって?」
アヴィンが聞きとがめてマイルを見た。
「うん? ああ、早く追いつかないとね。」
独り言になっていたかと、マイルは照れた。

「いた!」
アヴィンが叫んだのは、沼地が視界に入ってからだった。
沼地の入り口の所で、パルマン隊の四人とワリスたちヌメロス兵が交戦していた。
「!!」
アヴィンがはっとして立ち止まった。
「どうした、アヴィン?」
アヴィンの隣に並んだマイルが同じように絶句した。
「一体、どうなってるんだ!」
そこは戦場以外の何物でもない凄惨さだった。
パルマン隊の四人はいずれもどこかに傷を負っていた。
しかし彼らはまだ立っていた。
四人の周りにはヌメロス兵がぐるっと取り巻いており、その足元には負傷した兵士が、何の治療も受けられぬまま倒れ伏していたのだった。
「ロッコ!どうしてこんな事…」
先にマイルが動いた。
マイルはブーメランで兵士の一角をくずし、そこからロッコたちの横へ入り込んだ。
「マイル、アヴィン!」
ロッコたちがホッとしたように口々に声を掛けてきた。
「こんな大怪我を負わせるなんて。」
マイルは倒れている兵士を気遣った。
「仕方ないんだ。早くゼノン司令を追い掛けなくては!」
ロッコが必死の形相で叫んだ。
「死体の山を作るつもりか?」
半ば冗談でアヴィンが言った。
「そうなるかもな。」
グレイが暗い声で応じた。
「お、おい、本気か?」
アヴィンが慌てたが、四人は殺気ばった様子を崩さない。
「ゼノン司令が、木人兵部隊と接触しているんですっ。」
ラテルがアヴィンとマイルに訴えた。
必死な表情だった。
「奴らが上陸する前に何とかしないと、またカヴァロを奪い取られる!」
「や、やっぱりそうなのか?!」
アヴィンは息を飲んだ。
「こいつらが言ったんだ。ゼノン司令は、沼地の沖へ呼び寄せた艦に、木人兵を乗せているって。」
ラテルは目の前のワリスたちを睨みつけた。
ワリスはニヤニヤと笑っている。
ロッコたちのあせる様子を楽しんでいるかのようであった。
「僕たちはウェンディから情報をもらったんだ。」
マイルがロッコに言った。
「ゼノン司令は、元々移動する予定だったらしいんだ。僕たちに追われて逃げ出したように装って、まんまと脱出したんだ。」
「そうか。やっぱり画策していたんだな。」
ロッコがチラッとアヴィンとマイルを見た。
「二人とも、せっかくここまで来てもらったのに悪いんだが、もう一度カヴァロへ戻ってもらえないか?」
ロッコは言った。
「なに?」
アヴィンが顔をしかめた。
「俺たちはここを何とか突破して、ゼノン司令の本隊に追いつく。艦とは連絡を取らせない。大丈夫だとは思うが、万一の事もある。君たちは街へ戻って防御の備えをしてくれないか。」
「ロッコ、お前たち…。」
アヴィンが、ロッコたちの意図に気付いて言葉をとぎらせた。
たった四人でゼノン司令の取り巻きに立ち向かうというのか?
艦が来ているというなら、向こうの勢力は無限にも等しい。
そんな所へ突っ込んでいって、どうするつもりなのだ。
「ヌメロス帝国の恥は、俺たちが引き受ける。」
ロッコが静かに言った。
他の三人が黙って頷いた。
「ちょっとまって、ロッコ、ラテル…。」
マイルが引きつった顔で引きとめようとする。
グレイがそれをさえぎった。
「俺たちにとって、命を掛ける値打ちのある事なんだ。黙って行かせてくれ。」
「そんな!」
「街の守りは市長さんたちがやっている。あんたたちだけを行かせるわけにはいかないよ。」
アヴィンが言った。
「これはカヴァロのためだけじゃない。俺たちの国のことでもあるんだ。アヴィンたちを巻きこめないよ。君たちは帰ってくれ。」
ロッコにきっぱり言われると、アヴィンもマイルも言葉が出てこなかった。
「じゃあな、アヴィン、マイル。」
「……!!」
ロッコはにっと笑って二人を見ると、厳しい顔で沼地の奥を見据えた。


「行くぞ!」
「おうっ!」
四人が一気に飛び出した。
「ロッコ!早まるな!」
アヴィンとマイルは、異口同音に叫んだ。
ロッコたちは兵士の手薄な場所へ飛び込み、沼地の奥へ走りぬけようとした。
「抜かせるな!」
ワリスが叫んだ。
ヌメロス兵も必死で行く手を塞いだ。
剣と剣がぶつかり合う、激しい攻防になった。
「やった!」
ドルクがヌメロス兵の盾をかいくぐって背後に出た。
「先に行け!俺たちもすぐ行く!」
グレイが、ロッコが叫んだ。
「行かせるかよ。」
ワリスがドルクの後を追った。
それを合図にするように、争いあう二つの勢力は沼地の奥を目指して走り出した。
『このまま、ゼノン司令と刺し違えても…!』
ロッコたちの心の内は、熱く高ぶっていた。

「ラプレア!」
マイルは倒れているヌメロス兵に応急の回復措置をした。
そして、一番軽症そうな兵士に回復薬を握らせると、二人は大急ぎでロッコたちの後を追った。
二人とも、カヴァロに戻る気持ちは全くなかったのだ。
ロッコたちの様子は気がかりだった。
ゼノン司令と相打ちしかねない、鬼気迫るものを感じたのだ。
「なあ、マイル、止めたほうがいいのか?」
アヴィンはマイルに聞いた。
「止まるものならとっくに止めているよ。それに、今はもうカヴァロの為じゃない。ヌメロスの、彼らの故郷の為に戦っている…。僕たちが止めて良いものかどうか、わからないよ。」
マイルも戸惑いを隠せなかった。
「他の国だって関係ないさ。向こうは艦を従えてるんだろう?そんな、無駄死にしそうな所へ飛び込んで行くのを、見ていられないよ。」
アヴィンはきっぱりと言った。
マイルはふっと気持ちが楽になるのを感じた。
アヴィンの言う通りだ。
彼らのこだわりに、こちらまで左右される必要はないんだ。
「けど、止めるって言ったって、どうすれば…。」
「……。」
アヴィンも良い方法が浮かばなかった。
言葉で説得して、聞き入れてもらえるようには思えなかった。
『どうすればいいんだ…。』
難問を突きつけられて、二人は重苦しい気分になっていった。

沼地には大小無数の小島があった。
そして、主だった島々は木の渡し板で結ばれていた。
ロッコたちとヌメロス軍は、その中のひとつの島で争っていた。
戦力は五分五分だった。
ワリスの率いるヌメロス軍はよく戦っていた。
ロッコたちは技量に優れていたが、人数が全く足りなかった。
一度は先んじたドルクもまた乱戦の中に巻き込まれていた。
「ゼノン司令の所へは行かせん!」
ワリスだけでなく他の兵まで、争いに興奮していた。
「これじゃあ埒が開かねえ。」
ドルクがこぼした。
『こいつらには何の恨みもないが、時間稼ぎはいいかげんやめてもらわないとな。』
ドルクは深呼吸をすると、利き手に握った剣をしっかりと握りなおした。
「覚悟!」
ヌメロス兵の身体目掛けて、剣を振り下ろそうとした時だった。

ピカッ、ドドーン。

「うわっ。」
沼地にいた者は、皆まぶしい輝きに目を閉じた。
何の前触れもなく、特大の雷が沼地を襲ったのだ。
「うわああ。」
「あぶねえ!」
雷は、まるで狙い澄ましたかのようにロッコたちの真上に落ちた。
爆風で吹き飛んだ彼らは、まるで意図したかのように別々の島へ落下した。
そして、容赦ない第二波が、島と島をつないでいた木の板橋を、木っ端微塵に砕いたのだ。
少し後方にいたアヴィンとマイルは、一部始終を目撃する事になった。
「あれは…。」
雷が落ちた時、吹き飛ばされたロッコやヌメロス兵を包むように丸い結界が見えた。
凄まじい雷撃にもかかわらず殆んど負傷しなかったのは、その結界のためだった。
二人は思わず顔を見合わせた。
「おい、大丈夫か?」
アヴィンとマイルは地面に投げ出されたロッコたちに駆け寄った。
「うう、大丈夫だ。」
ロッコが頭を抱えて答えた。
「なんてひどい雷だ。」
ドルクが愚痴をこぼした。
「身体は?しびれていないかい?」
マイルが尋ねる。
「大丈夫だ…。ひでえな。もうこの沼に雷は落ちないはずじゃなかったのか?それとも、ここでは天気に関係なく雷が落ちるのかよ?」
グレイが二人に聞いた。
「それに、雷に打たれたってのに、どうして大丈夫なんだ?一体、今の雷は何だ。」
ドルクもラテルも、同じ疑問を持ってマイルを振り仰いだ。
「あの雷は…。」
マイルが口を開きかけた。
「違うよ、雷じゃない。」
アヴィンが横から口を出した。
「え?」
マイルも、他の四人も驚いてアヴィンを見た。
「あれはエレクトロ・ブラストだ。魔法だよ。」
アヴィンが断言した。
マイルが眉をしかめた。
「ちょっと待って。そんな事が出来るのは…」
マイルは途中で言葉を飲み込んだ。
今この世界でエレクトロ・ブラストを使えるのは、マイルの知る限りたった一人しかいない。
でも、なぜ味方に……。

マイルは空を見上げた。
青空がまぶしかった。
そこには何も見えない。
誰も姿を現さなかった。
『どういう事だろう。』
これが、何かのメッセージだろうとは、おぼろげにわかるのだが。
「たぶん、俺たちが深追いするのを止めたんだ。」
アヴィンが自分の考えを言った。
「深追い?」
ロッコがオウム返しに言った。
「結界が皆を守っていたよね。」
マイルが考えながら言った。
「それって、傷付けるつもりはないけど、戦いを止めて欲しいって事だったんじゃないかな。」
「そんな事、一体誰が…。」
ロッコがつぶやいた。
「俺たちのもう一人の仲間。最初に会ったとき、一緒にいた魔道士だ。」
アヴィンが言った。
「警告だと思うんだ。あの雷が落ちてこなかったら、あんたたちはヌメロス兵を追い詰めて…、取り返しのつかない事をしたかもしれない。」
「……。」
ドルクが蒼白な顔になっていた。
「止めてくれたと思うんだ、あの雷で。カヴァロはもう取り戻したんだ。ロッコたちが、同郷の仲間と傷付けあう必要はないんじゃないか?」
アヴィンが言うと、ロッコたちはお互いに顔を見交わした。
「アヴィン、マイル……。」
ロッコがよろめきながら立ち上がった。
他の三人も、支えあったりしながら起き上がった。
「目が醒めたよ。…今のうちなら、ゼノン司令を倒すことすら出来るんじゃないかって、思い詰めていた。」
「俺たちの命ですむんなら、どうなってもいいって思ってた。」
「ありがとう。おかげで生き延びたようだ。」
それぞれが照れたように感謝の意を伝えた。
「そんな、俺たちがした事じゃないし。」
アヴィンは困惑した。でも、少し誇らしかった。
「欲張るのはよそう。ゼノン司令が艦と接触しているかどうか確かめるだけにしよう。後のことは、カヴァロの人たちと協力し合えばいい。アヴィン、マイル、君たちも来てくれるか?」
ロッコが仲間に言い、それから二人に言った。
「ああ、もちろん。」
「一緒に行くよ。」


「艦はまだ来ておらんのか。」
一方、護衛兵と共にカヴァロを脱出したゼノン司令は、沼地のはずれの海岸線に到着していた。
そこはヌメロス軍が海上との行き来に使っている小さな船着場だった。
軍艦が直接横付けする事は出来ない、浅くて狭い場所だった。
近くの草の生い茂った水面に、数人乗りの小さなボートが隠してあった。
が、今はそれを使う伝令もいない。
ここには用途を悟られないため、何の建物も建てていなかった。
なので、護衛兵たちは司令用の休憩所をしつらえているところだった。
「は。ネクロス様のことですから、間もなく到着なされることと存じますが。」
すぐ後ろに控えている護衛兵が相槌を返してきた。
「ネクロスめ、油を売りおって。」
ゼノン司令はそっけなく言った。
「交代で海を見張れ。ネクロスと連絡が取れ次第、上陸の段取りを進める。」
「はっ。」

しばらくすると、数人の兵士が船着場にやって来た。
ワリスが先行させた兵士だった。
彼らは直接ゼノン司令に伝言する勇気などなく、護衛兵に事の次第を報告した。
「何だって!」
報告を受けた護衛兵は、血相を変えてゼノン司令に取り次いだ。
「カヴァロが落ちた、だと?」
ゼノン司令の前で同じ報告をさせられた兵士は、恐れのあまり震えていた。
一方ゼノン司令は、意外というほどの冷静さを保っていた。
「か、閣下の御命令をまっとう出来ず、我々は、決死の覚悟で後続の敵を断つべく、沼地の入口にて防戦しております。」
「フン、その程度の役にしかたたんか。」
「う……。」
容赦ない言葉に兵士たちはうつむいた。
「わかった。お前たちは直ちに戻れ。ここにのぼせ上がったカヴァロの者どもを近づけてはならん。」
「はいっ!」

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