Junkkits

カヴァロ解放

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day11-5

アヴィンたちは、木っ端微塵になってしまった木橋の代わりに、ほかの橋から木材を引き剥がしてきた。
その木材を使い回しながら、沼地の奥へと進んでいく。
同じように吹き飛ばされたヌメロス兵は、ロッコたちより奥の島へ落ち、ロッコたちが体制を立て直して周囲を探った時には、すでに姿を消していた。
「この先は橋がちゃんと残っているな。」
何度か木材を渡す作業をして泥だらけになったアヴィンが、次の島への橋が無事なのを見て、ホッとした様子で言った。
「これだけ通りにくくなっていれば、木人兵が上陸してもすぐにカヴァロに攻め込めませんね。」
ラテルが言った。
「そうだな。でも艦には木材の備蓄があるだろうし、安心しているのは危険だぞ。」
グレイがやんわりと言った。
「そうだ、アヴィン。」
ロッコがアヴィンに言った。
「さっきの雷は魔法だと言ったよな。同じ事がアヴィンにも出来るか?」
「え?」
「ゼノン司令の様子を伺ったあと、ここに残っている橋を全部落としてしまいたいんだ。出来るかい?」
「大丈夫だ。…俺のはあんな強い魔力じゃないけどな。」
「じゃあ頼む。ラテルが言うように、少しでも時間稼ぎになることはしておきたいんだ。」
「ああ、わかった。」
アヴィンは頷いた。
「お願いします、アヴィンさん。」
ラテルも頭を下げた。

最後の橋を渡ると、そこは雑草の生い茂る場所だった。
姿こそ見えないが、打ち寄せる波の音と共に人のいる気配がしていた。
「全員で行くのは無理そうだな。」
ロッコが言った。
「俺が行ってくるよ。」
ドルクはそう言うと、近くの茂みまで前進した。
「僕も行きます!」
ラテルが後に続いた。
「見つかるんじゃねえぞ、ラテル。」
グレイが冷やかし半分に声を掛けた。
ラテルはむっとして振り返ったが、すぐに真剣な顔で進んでいった。

「艦は見えないな。」
海が見渡せる位置まで進むと、ドルクは目を凝らして海岸線をうかがった。
海面は日差しの照り返しできらきら輝いていた。
小さな艦影など、見落としてしまいそうだった。
ラテルも一緒になって艦の姿を探したが、二人とも見つけることは出来なかった。
「あっちの方に雲が出ていますけど、他には何も見当たりませんよ。」
ラテルの指差す沖の彼方、水平線の近くに、黒い雲のかたまりがあった。
「俺も何にも見えない。まだ来てねえな。助かったぜ。」
ドルクがホッとしたように言った。
「ゼノン司令も待ちくたびれた様子ですね。」
遠目に見えるゼノン司令は、いらいらと落ち着きがない様子だった。
もっとも、ゼノン司令はいつも苛ついた様子をしているのだ。
周りに控えている護衛兵も、緊張してると言うよりご機嫌伺いをしているように見えた。
「そうだな。こんなもんか、戻ろうぜ。」
ドルクが言い、二人は慎重に後戻りをはじめた。

「まだ艦は来てないのか!」
ドルクたちが戻って報告すると、一同の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「そうか、良かった。」
ロッコは初めてほっとした顔を見せた。
「で、どうする?」
ドルクは重ねて聞いた。
「戻ってカヴァロの連中と街を守るのか。」
「そうだ。俺たちが独断で行動したらまずいだろう。艦影が見えないなら、まだ十分に時間はある。カヴァロに戻ろう。」
ロッコは冷静に判断を下した。
「ちょっともったいないけどな。ゼノン司令があれしか部下を連れてないなんて、早々あるもんじゃねえよ。」
グレイが言うとラテルが突っかかった。
「一度決めたことをひっくり返さないでくださいよ。」
「冗談だよ、本気にするな。」
グレイはむきになったラテルに言い返した。


一行はもと来た道を歩き始めた。
仮橋を渡り、木材を渡し替えようとしたところで、ドルクがはっとして立ちどまった。
「どうした?」
ロッコが振り返った。
「奴らがいなかった…。」
ドルクがつぶやいた。
「奴ら?」
いぶかしむようにロッコが繰り返した。
「そうだ、ゼノン司令の側には護衛兵しかいなかった。僕たちが追っていた兵士たちはいませんでしたよ!」
ラテルが興奮して言った。
「通り道から外れて、姿を隠したのか?」
「どこかに潜んでいるのか!?」
それぞれが背中合わせになり、周囲の気配をさぐった。
と、後ろで草むらががさがさと鳴った。
マイルはブーメランを構えた。
「へへへ、逃げ道はないぜ。」
抜き身の剣をだらりと垂らして、血走った目のワリスが橋の向こうに現れた。
「!!」
それを合図にして、あっちからも、こっちからも隠れていた兵士が飛び出してきた。
「待ち伏せか!」
アヴィンが剣の柄を握った。
「ワリス、もうカヴァロは解放されたんだ。あきらめろっ!」
ドルクがワリスに向かって叫んだ。
「ふん、冗談じゃねえ。お前たちの首でも持っていかなけりゃ、俺はお咎めから逃れられねえんだよ。覚悟しな!」
「なんて、自分勝手な奴!」
ラテルがむかつきそうな顔をしてワリスを罵倒した。
「うるせえっ!」
ひゅっと剣がなぎ払われる。
「そう簡単にやられないよ!」
あとずさって剣をかわしたラテルは、軽いステップでワリスに切り込んだ。

「オールアタック!」
マイルはブーメランを振るった。
取り囲んでいた兵士が、次々となぎ倒された。
彼らが起き上がる前にロッコやグレイが飛び掛かって兵士を押さえつけた。
「アクア・スプラッシュ!」
アヴィンも魔法を繰り出して戦力を削るのに余念がない。
形勢は、あっという間に互角になった。
「さあ、一対一だぜ。」
ドルクが剣を構え、兵士たちに凄んだ。

「うああ、やめてくれっ。」
一人のヌメロス兵が叫び声を上げた。
「やだ、俺はもういやだっ。」
兵士が剣を放り出し、ゼノン司令のいる沼地の奥へ逃げ出した。
「俺も、死にたくねえ。」
ほかの兵士がじりじりと後ずさっていく。
「こいつら、一体…。」
ドルクはあっけに取られた。
「こらあっ、びびってんじゃねえ!」
ワリスが兵士に怒鳴った。兵士たちがビクッと震えた。
「ワリス、お前、ほかの連中を巻き込んだんだな!」
「そうさ。俺と一緒にたんまり報奨金を稼ごうぜって言ったのさ、裏切り者。捕まえて隊長の居所を吐かせてやる!そうすりゃ、俺のお咎めだって軽くなるってもんさ。」
「お前は、お前は許せねえ!」
ドルクはワリスに切りかかった。
「よせ、ドルク!」
ロッコが叫んだが、ドルクには届かなかった。
二人は何度も打ち合った。
ドルクは目の前の勝ち負けだけでなく、今まで引きずってきた物を賭けるように激しく剣を振るった。
次第にワリスは防戦する事が多くなり、少しずつ後ずさった。
「そろそろおしまいか?金目当てのあんたに、命を掛けられるはずはないよな。」
ドルクはワリスを橋の側まで追い詰めた。
ほかの兵士は、つかまった者を除いて、全員既に橋のむこうへ逃げ出していた。
「あんたも逃げたいんだろ?けど、ゼノン司令のところへは帰さねえ。二度と、上手い話で人を引っ掛けられないようにしてやる!」
「やめろ、ドルク!」
ロッコが叫んだ。
「ドルクさんっ!」
ドルクが剣を大きく頭上に掲げた。
「スリープ!」
とっさにマイルが二人に呪文を放った。
「うっ・・・。」
ドルクがこめかみを押さえた。
「な、何だ、急に・・・。」
ワリスもがくりと片ひざを付いた。
「畜生、目がかすむ・・・。」
カランと剣が転がり落ちた。
アヴィンが飛び出してワリスを取り押さえた。
「ドルクさん!」
マイルがくず折れるドルクを受け止めた。
とろんとした目つきのドルクは、目の前で捕まったワリスを捉えていた。
「・・・終わったの、か?」
襲ってくる眠気と闘いながらドルクが聞いた。
「ええ。もう、大丈夫。」
マイルが答えると、ドルクは安心したように意識を手放した。


背後に感じていた争いの気配は、潮が引くように消えていった。
『アヴィンさん、マイルさん…。』
ミッシェルは、ちらりと背後を見やった。
アヴィンたちの戦いに、殆ど加勢は出来なかった。
ただ、伝わってきた焦りと憤怒の波長に危険を覚えて、警告の意味で魔法を一撃放っただけである。
もちろん、その場にいた人々には守りの結界を張ったけれども…。
アヴィンとマイルには、それが自分からのメッセージだと理解してもらえたようだ。
ほどなく怨恨のこもった気配は感じられなくなり、ミッシェルは自分の仕事に専念できたのである。

ミッシェルはゼノン司令がいる場所とは離れた、沼地の外れに立っていた。
海沿いのわずかな平地で、沼地からの見通しは悪く、人目を気にせずに魔法を繰り出せる場所だった。
目の前には青い空と穏やかな海。
しかし、沖の彼方のどす黒い雲は、その下で嵐が吹き荒れている事の証しだった。
嵐の中に、ヌメロスの戦艦を閉じ込めていた。
その艦には木人兵と兵隊が、満載されているのだ。
ミッシェルは杖を持つ手を高く掲げた。
腕は既に固く、重い。
肩や背骨がきしむ。
疲労が蓄積しているのがわかった。
だが、止める訳には行かなかった。
新たな危険をカヴァロに近づけてはいけないのだ。
ミッシェルは、海と、空と、風と対話していた。
ヌメロス艦の行く手を阻んで欲しいと、願い続けていたのである。
このところ空間転移の術を頻繁に使っていたミッシェルにとって、それは全力で立ち向かわなくてはならない行為だった。
せめて日が傾き、艦から木人兵を下ろせなくなるまで。
自分の体力、魔法力を使い果たしても、ミッシェルはこの持ち場を守ろうと決めていた。

ぼろぼろになった兵士が、ゼノン司令の元へ戻ってきた。
直接報告をする勇気はないらしく、部下に報告をしている。
彼らのバラバラな様子、ここへ着いて安堵したような様子を見れば、報告など受けなくとも結果は知れた。
『カヴァロが陥ちたか。』
しかも、やって来た兵士の中に、あの狂気にも似た執念を持った兵士はいなかった。
見かけは兵士でも、農夫あがりの気弱な男たちばかりだった。
完全な勝利を手にしたカヴァロに、もう一度踏み込む事は是か否か…。
妄執に似たものがなくては、今の状態はひっくり返せない。
しかも、陽はもう下がり始めていた。
暗くなれば艦から兵卒を下ろすのが翌日回しとなる。
しかも木人兵は重量がある。
足元の悪い沼地を通過させるのにどれだけかかるか…。
その間にカヴァロは守りを固めてしまうことだろう。
次々と悪い要素ばかりが脳裏に浮かんできた。
ゼノン司令はやおら立ち上がった。
「ええい、遅い!ネクロスは何をしておるのだ!!」


「エレクトロ・キューブ!」
アヴィンの放った雷撃が、沼地に掛かる橋をこなごなに砕いた。
「よし、これで全部だな。」
ロッコが周囲を見渡して言った。
「本当に良かったのか? 全部落としてしまって。」
アヴィンが心配そうに聞いた。
「橋が落ちていれば、木人兵は沼地を越えるのが難しくなる。向こうは艦に積んだ木材しかないから、うまくいけばあきらめてくれるかも知れない。」
「確かにいい方法だよ、アヴィン。沼地を出られなければ、森へ木を切りに行くのも一苦労だからね。」
マイルも言った。
「そうかな。」
アヴィンはポリポリと頭を掻いた。
「さあ、行こうぜ。」
グレイがロッコに呼び掛けた。
グレイの手には、捕虜にした兵士たちを縛った綱の端が、しっかり握られていた。
兵士たちは皆うつむいていた。
一人、ワリスだけが胸を張り、口をへの字に結んでドルクを睨みつけていた。
「ああ。それじゃアヴィン、マイル、あとを頼むよ。」
「明日の朝にはまた来ます。」
ラテルが二人に言った。
「うん。そちらも道中気を付けて。」
マイルが言った。
ロッコたち四人は、捕虜にした兵士を連れてカヴァロへ向かって行った。

「とりあえず、終わったね。」
マイルがアヴィンを振り返った。
「ああ…。」
アヴィンがまだ上の空の様子で生返事をした。
「しっかりしてよアヴィン。これから徹夜で見張るんだよ?」
マイルがアヴィンの腕を小突いた。
「わかってるって。」
アヴィンは沼地の入口の、なるべく乾いた地面を選んで腰を下ろした。
マイルが隣に座る。
沼地の奥、ゼノン司令のいる場所はここから見えない。
艦が来たとしても、気配を感じ取れるかどうかも分からなかった。
だが、どんな万一の事態が起こっても、ここで押しとどめるつもりだった。
一度関わった以上、最後まで見届けたかった。
「あ!」
アヴィンがふと思い付いたように声をあげた。
「どうしたの、アヴィン。」
マイルがアヴィンを見た。
「…俺、朝から何にも食ってなかった。」
「………。」
「しかも、何にも持ってないんだ。」
大きなため息をつくアヴィンを、マイルはあきれたように見つめた。
「携帯食くらい、持っていればいいのに。」
そう言うと、マイルは自分の道具入れの口を緩めた。
「はい。アヴィンの分。」
「え?」
アヴィンは目を丸くして差し出された小さな包みを受け取った。
「マイル、俺のことまで考えてくれてたのか。」
感謝の面持ちで言うアヴィンに、マイルは笑って答えた。
「今朝高架水路に出る時に、アルトス君からもらったんだ。マシュー親方が焼いた固焼きパンだって。」
「そうか…。」
アヴィンはマシュー親方に感謝しながら包みを開いた。
ビスケットのように固い、小さなパンがぎっしり並んでいた。

二人はパンをかじり、交代で沼地を見張った。
陽が落ちると、沼地の向こうに焚き火のほのかな明りが見えた。
「艦を呼び寄せてるかと思うと、気が気じゃいられないな。」
アヴィンはマイルに言った。
「動きがあればちゃんとわかるよ。頼むから、大人しくしていてよ。」
マイルは心配そうに言った。
こちらは焚き火もしていなくて表情もよく判らないが、真剣に心配されていることはわかった。
「大丈夫。橋はないし、俺はテレポート出来ないし。安心して休めよ、マイル。」
アヴィンは精一杯の誠意を込めてマイルに答えた。
「わかったよ。じゃ、お休み。」
マイルの安堵した声が聞こえた。
アヴィンの隣で、マイルはマントに包まって横になった。
『カヴァロの街はどうしているだろう。』
ロッコたちが戻って、少しは余裕のある事が伝わっただろうか。
「長い一日だったな。」
話し掛けたが返事がない。
見ると、傍らのマイルはもう規則正しい寝息を立てていた。
『話相手がいないと、眠くなるよなぁ。』
小さなため息を一つつき、アヴィンは今日一日の出来事を心の中でたどり始めた。

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