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カヴァロ解放

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day2-1

翌日。
朝、国際劇場の見張りに赴いたアヴィンとマイルに、三人の市民が声を掛けてきた。
「おはよう、傭兵さん。実は頼みがあるんだが・・・。」
「なんだい?」
アヴィンが応じる。
「俺はトムソンと言うんだ。あんたたちと一緒に見張りをしたい。ちょっと歳は行っているが、若い者には負けないつもりだ。」
そう言ったのは、ひげもじゃの大男だった。
穏やかな口ぶりを聞いていなかったら近づきたくない程の、体格の良さだった。
「スタンリーだ。俺は暴力沙汰は嫌いだが、カヴァロを踏みにじるヌメロス兵はもっと嫌いだ。」
若い男がそう言った。
「自分の短剣を持っている。尤も動物相手にも滅多に使わないけどな。」
「俺はエノラって言うんだけど・・・。」
もう一人若い男が切り出した。
三人の中では、一番頼りなさそうだった。
「俺も街を守りたいんだ。それに、ウェインディちゃんも守ってやりたいんだ。」
照れながらそう言うエノラを、アヴィンとマイルはあきれて見つめた。
「・・・動機は人それぞれで良いと思うけどね。」
しばらくして、気を取り直してマイルが言った。
「ありがとう三人とも。僕はマイル。よろしく。国際劇場は市庁舎とも近いから、僕たち二人で守りきるのは大変だと思っていたんだよ。合わせて五人なら、交代で休むこともできそうだ。」
「必要なら、仲間にも声を掛けるさ。とりあえず自分が参加してみないと、どんな事をするかわからないもんな。」
スタンリーが言った。
「三人とも武器は使った事があるのか?」
アヴィンが聞いた。
アヴィンにはいつも目先の事しかない。早くも教え込むつもりになっていた。
「俺は大丈夫だ。野生の豚だって倒せる。」
トムソンが言った。
懐にしまっていた幅広のナイフを取り出して見せる。
「そりゃあ凄い。よろしくな、トムソンさん。俺はアヴィンだ。」
「ああよろしく。」
「俺は経験なしだ。成人のお祝いにもらった短剣だが、ろくに使った事がない。」
スタンリーが自分の短剣をアヴィンに見せながら言った。
「最初は身の危険を避けることさ。相手に立ち向かうのは、剣の扱いに慣れてからでいい。良い剣じゃないか。」
「ありがとう。」
「お、俺は何にも持っていないんだ。それじゃだめかなあ。」
エノラが言った。
「そんな事はないさ。ただ、自分の身を守るためには何か覚えていた方がいいんだ。」
「そ、そうか・・・。」
エノラは困った顔をした。
「エノラさんには、もっと良い仕事があるかもしれないよ。」
マイルが言った。アヴィンが怪訝な顔をした。
「ほら、昨日ウェンディのボディガードを付けたらどうだって話していたじゃないか。」
「ああ、あれか。」
「な、なんですかそれっ!ウェンディちゃんのボディガード??」
エノラが顔色を変えた。スタンリーも気になる様子である。さすが人気歌手であった。
「ウェンディはカヴァロではいつも一人で街を歩いているぞ。カヴァロ市民あっての彼女だからな。ボディガードなんて、穏やかじゃないぞ。」
スタンリーの言葉にエノラも頷いた。
「彼女たちが、ホテル・ザ・メリトスでミニ音楽会を開いてくれるんだよ。曲目はヌメロス兵の知っている歌が多いけれど。それでいろいろとね。」
「俺、そっちの方が気になるなぁ。ホテル・ザ・メリトスで募集しているんですか?」
「まだ本決まりじゃないと思うけど。酒場のバーテンさんが、メリトスさんに話すって言っていたんだ。」
「エノラさん。」
アヴィンが口をはさんだ。
「ウェンディのボディガードに付くなら尚更、戦い方をを覚えた方がいい。でなきゃ、ガードはおろか自分だって守れないぞ。」
「あ、ああ、そりゃそうだけど・・・。でも俺、ウェンディちゃんの方が心配で。」
「武道をやるわけでもないんだろ? 相手は酔っ払いのヌメロス兵だぜ。基本を押さえてから応募した方がいいんじゃないか?」
「でも、ウェンディちゃんのガードなんて、あっという間に応募が殺到しそうだし・・・。」
「・・・・・・。」
アヴィンが沈黙してしまったので、マイルが横から口を出した。
「応募しているかどうか、聞いてこればいいですよ、エノラさん。もしまだだったらここへ戻ってきて一緒に見張りに付いてください。」
「わかった。じゃ、行って来るよ!」
まるで束縛から解き放たれたように、エノラはホテル・ザ・メリトスの方へ駆け出していった。
「何て奴だ。」
アヴィンが口を尖らせて文句を言った。
「エノラは大のウェンディファンなんだ。好きなようにさせたらいいよ。もっとも、あの現実的なメリトス女史がエノラを採用するとは思えないけどね。」
スタンリーがアヴィンに説明した。
トムソンが苦笑いをしてそれを聞いていた。
「あいつはまだまだ青いってことだな。さて、二人づつ組んで見張りの仕事を教えてもらうか。」

ホテル・ザ・メリトスの良いところは、一階に食堂兼酒場があって、街の人が気楽に出入りしているところだった。宿に足止めされている客ばかりでは雰囲気が重くなりがちな食堂が、街の人たちのおかげでにぎやかさを保っていた。おまけに食事もうまい。
昼時、トムソンとスタンリーに見張りを頼んで、二人は食事にやって来た。
「いらっしゃい、アヴィン、マイル。おすすめランチでいいかい?」
注文をとりにきたバーテンが、確認するまでもなく伝票を書いていく。
「ああ、頼む。」
アヴィンが答える。
「ヌメロス兵が来ていないな。」
「そうなんだ、今日も朝早くに街の西へ出て行ったよ。助かるよ。連中は昼間から酒を飲むし、ろくな事がないからね。」
バーテンはにやっと笑って下がっていった。
「ヌメロス軍は、まだアリアさんを探しているんだね。」
マイルが言った。
「それほど大事な人だったんだな。彼らが脱出するのを手伝って良かったよ。」
アヴィンが笑顔で言った。
「そうだね。」
マイルはちょっと複雑な笑顔を返した。
「ヌメロス兵がいないと、街の人も穏やかなもんだな。」
アヴィンが店内を見回しながらそう言った。
昨日の夜、酔っ払ったヌメロス兵におびえた様子でひっそりとしていたのがうそのようだった。
どのテーブルからも、にぎやかな話し声が聞こえていた。
マイルはまだ少し腫れている頬を押さえた。
「全くだ。ここの街の人たちは、結構芯が強いみたいだね。ヌメロス兵を追い払うのを当たり前のように考えているし。」
「メリトスさんもデミール市長も打たれ強い感じだな。今日来てくれた二人だって、自分の街を守る気持ちが強そうだ。」
「ああ、その事だけどさ。一人づつ国際劇場の両横の道を押さえておけば、とりあえず市庁舎側から働きかけがあれば気が付くだろ?」
マイルは市内の見取り図を取り出してアヴィンに示した。
「東西の出入り口はまだ手におえないけれど、南の沼地に向かう出入り口の様子は見張る事が出来ると思うんだ。ヌメロス軍がどんな動きをしているかわかれば、対策も立てられるだろう。」
「南の入り口は、沼地で行き止まりだろう?」
「でもアリアさんを付けていた連中がテントを張っていたよ。沼地から海へ出る水路があるかもしれないし、だとしたら、ボートを使って伝令を出しているかもしれない。」
「そうか。」
アヴィンは感心したようにつぶやいた。
「俺は、四人に増えたら、交代で夜中も見張りが出来るかなって考えてたよ。」
「ヌメロス軍の方も、今はデミール市長を襲おうとは考えていないと思うけどね。そのつもりがあるなら、市庁舎を奪ったときにもっと木人を暴れさせているだろうし。」
「はい、お待ちどうさま。」
ウエイトレスの娘の手で、食事が運ばれてきた。
皿からもうもうと湯気が立っている。
「うまそう。」
「もちろんよ。いっぱい食べて見張りがんばってもらわなきゃ。」
ウエイトレスはにっこり笑って言った。
おしゃべりを中断して、若者二人は食事に夢中になった。

「・・・あれ?」
マイルが食事の手を止めてアヴィンの背後を見た。
二人ともあらかた皿の上のものは平らげていた。
「何だ?」
アヴィンが振り向くと、カウンターに一人の男が座ったところだった。
人目に付く青いローブと大ぶりな杖。二人には見慣れた後ろ姿だった。
アヴィンは声を掛けようとした。
「待って。」
マイルがアヴィンの腕を抑えた。
「なんだよ、マイル?」
「僕たちには気付いているはずだよ。アヴィンの後ろを通ったんだから。」
「じゃ、何で声を掛けてくれないのさ。」
不満そうな声を上げるアヴィンに、マイルは言った。
「やっぱり忘れていたんだね。・・・僕たち、本当はこの街の人とはかかわらない約束だったんだよ、アヴィン。」
「あ!・・・。」
アヴィンが絶句した。どうやら今の今まで都合よく約束を忘れていたらしい。
「ミッシェルさんが接触しようとしないのは、僕たちがこんなところに堂々と現れているからじゃないかな。」
「そうだった・・・」
アヴィンは頭を抱えた。恨めしそうにマイルを見る。
「何であの時止めてくれなかったんだよ。」
「僕が言ったとして、アヴィン、あきらめた?」
「・・・いや。」
照れなのか、開き直りなのか、アヴィンはにっと笑った。
「でも、どうしよう、マイル。」
アヴィンに上目づかいで見つめられて、マイルは肩をすくめた。
「まったく、後のことを考えていないんだから。じゃ、僕に任せてね。」

「勘定、置いておくよ。」
食事を済ませると、マイルはカウンターに割り込んでいった。
ミッシェルが、窮屈そうに身体をよけた。
「ああ。ありがとな。」
「ねえ、バーテンさん。この街で女の子をデートに誘うおすすめの場所ってどこかな。」
マイルは声を落として言った。
「なんだマイル、いい娘がいたのか?」
「アヴィンには内緒だよ。」
「へへっ、お安くないね。そうだな、俺だったら高架水路の取り入れ口のところへ誘うぜ。何ていうか、神秘的なんだよな、あそこは。特に夕暮れ時はおすすめだぜ。」
「高架水路の取り入れ口だね。ありがとう。さっそく下見してみるよ。」
「うまくいったら教えてくれよ。」
「はは、うまくいったらね。」
マイルは笑いながらカウンターを離れた。
「どうだった?」
店の前で待っていたアヴィンは、出てきたマイルに尋ねた。
「わかったと思うよ。さ、高架水路の取り入れ口のところだ。先に行っていよう。」
マイルは先に立って歩き出した。

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