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真実の島へ行きましょう

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少年―いや、もう青年と呼んだほうが良さそうだった―は、薄暗い部屋で、身体を丸めて座っていた。
その目はうつろだった。
ガウェインが声を掛けてミッシェルを紹介すると、青年は顔を上げてミッシェルを見たが、その視線はミッシェルを通り抜けて、どこか彼方を見ているようだった。
『この人は、自分から逃げている。』
ミッシェルはそう感じた。
自分のしてきた事に納得がいかないのか。自分を襲った出来事が辛すぎたのか。それらを、受け入れることが出来ないのだろう。
しかし、今のままでは、生きようとする力が萎えてしまう。
ミッシェルは、真実の島の話をした。そこで呪いを解く薬を手に入れて、苦しんでいる娘を助けてやろうと提案した。
よく聞いてもらおうと、アヴィンの前に膝をついて語りかけた。
「まだ出来る事があるのに、自分の悲しみに暮れているのは、もっと悲しい事だと思いませんか?」
言うべき事を語り終えると、ミッシェルはじっと待った。青年の心の中に、今の言葉が届いただろうか? 
アヴィンはしばらく動かなかった。だが、その瞳の中に光が戻ってきた事にミッシェルは気付いた。
やっと、アヴィンの瞳がミッシェルを見た。
焦点の合った、真剣なまなざし。
先程とはまるで別人のようだった。ミッシェルは重ねて言った。
「アヴィンさん、私と一緒に真実の島へ行きましょう。」
そのまま、アヴィンの返事を待つ。決断は早かった。彼は言った。
「真実の島へ、行こう。」

後ろで二人のやり取りを聞いていたガウェインが、安堵した様子で言った。
「そうと決まったら急いだ方がいい。ルティスは長くは持たないぞ。」
「準備を今日中に終えて、詳しい話を聞き、明日の朝に発ちましょう。」
「ああ。」
「町へ出ますよ、アヴィンさん。」
ミッシェルはそう言ってアヴィンに手を差し出した。握手をして、それからアヴィンを引っ張り起こした。
「よろしく。ミッシェルさん。」
並んで立つと、心持ちミッシェルの方が背が高いようだった。
口数は少なそうだが、案じていたよりはずっと軽症のようだとミッシェルは思った。
これなら、1週間も外の空気を吸ってこれば、新しい息吹を得られるだろう。


「急ぐ旅ですから、野宿は覚悟してくださいね。」
「ああ。」
「テントをあつらえなくてはなりませんね。二人ですから、小ぶりなものでいいですか?それとも、冒険者を契約しますか?」
「いや。剣は自信がある。」
「では、大丈夫ですね。私も黒魔法なら少々自信があります。」
ミッシェルの矢継ぎ早の質問に、アヴィンは黙ってうなずくか、短く相槌を打つだけだった。
意見が分かれて買い物が進まないのも困りものだろうが、こうあっさりと決まってしまうのも、一人旅と変わりないようで味気ないものだった。
「あとは食料ですね。」
道具屋でリストアップした品物を揃えさせながら、ミッシェルはつぶやいた。
「回復用の護符が少なくないか?」
珍しく、アヴィンが言った。
「ああ、それは、大丈夫です。」
ミッシェルは店主が奥に入ったのを確認してから小声で言った。
「少々の回復魔法も使えます。」
「え?」
アヴィンが怪訝そうな顔をした。
「回復魔法も、って…。」
ミッシェルはそれ以上答えなかった。
アヴィンは何か言いたそうにじっと見ていたが、ミッシェルに答える意思がないとわかると、手元の品物のリストを覗き込んだ。
「おやじさん、麻痺治しの薬とプレアの護符を追加だ。」
アヴィンが奥に向かって言った。
「へい、いくつにしましょう。」
「3枚づつ頼む。」
ミッシェルは先程感じた味気なさを、急に懐かしく思った。回復魔法の使い手としては信じてもらえないらしい。
ミッシェルの機嫌を感じ取ったのか、アヴィンが言った。
「人数が少ないときは、回復魔法を当てにしてはいけないんだ。魔獣のほうが数が多くて助けようにも側へ寄れなくなってしまう事があるから。あなたの腕を信じないわけじゃない。」
「そうなんですか。」
ミッシェルは感心した。回復魔法を覚えていても、実際には殆ど使う事はなかったのだ。
黒魔法の一撃を突破して、ミッシェルの身体に傷を付けるような魔獣は滅多にいなかったのである。

道具屋、武器屋と回って、二人は神殿へ戻った。
その間に、ガウェインが真実の島に関する覚書を作ってくれていた。
「まず、セータの北のドークスの村へ行くのだ。この村で神木の葉を譲ってもらい、真実の島に渡るのだ。だが、島の周囲の海は、『偽善の海』と呼ばれている。いつも荒れている行儀の悪い海だ。ドークスには小さな船しかないかもしれん。十分気を付けてくれ。」
「わかりました。」
ミッシェルは覚書を受け取り、懐にしまった。ガウェインはくどくどと言わず、一言だけアヴィンに贈った。
「頼んだぞ、アヴィン。」
「ああ。」
すっかり元気を回復したアヴィンが、自信たっぷりに答えた。


★ミッシェルさんの熱っぽい語りを堪能するには、ぜひゲームをどうぞ。
中古店ならプレステ版があると思います。
とても長くて熱いシーンなので、全てをちゃんとは書けないです。ごめんなさい。

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