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カヴァロ解放

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day3-2

「具合はどうだ、マイル?」
昼食時、アヴィンは部屋に戻ってきた。
マイルは眠ってはおらず、天井を向いて考え事をしていた。
「もうすっかり良いよ。」
アヴィンの姿を見ると、すっと身体を起こす。だいぶ、具合が良くなったようだ。
「カヴァロタイムズの方は、メリトスさんと話が出来たんだ。彼女のグループの一つなんだって。僕たちを追っかけまわすのは止めてくれるそうだよ。」
「そうか、良かったな。」
アヴィンはホッとした。
詮索されない事もありがたかったが、マイルの口調に元気が戻っているのはもっと嬉しかった。
「新しい人たちはどう?」
逆にマイルが聞いた。
「みんな熱心だ。すぐに仕事を覚えたよ。しかも、だんだん仲間が増えて来ただろう。なんか心強いな。」
「そうか。これがうまくいったら、逆にヌメロス軍を閉じ込めるように持っていけるかな。」
マイルは言った。
アヴィンの顔から笑みが引いた。
「市庁舎に閉じ込めるのか?」
「理想としてはね。向こうが降伏するように仕向けたいんだ。」
「それは、相当覚悟しないとな。今の人たちじゃ到底無理だろう。街の人は兵士と互角には戦えないぞ。」
アヴィンが言った。
「兵士相手には、やはり経験者が必要だよ。」
「でも・・・。」
マイルが困った顔でつぶやいた。
「何だ?」
「メリトスさんと、カヴァロを開放する手段の話になっちゃってね。あの人、待つのがじれったいみたいなんだ。何人いたら、街を解放するめどが立つのかって聞かれちゃってさ。」
「そんなの、人数で決まる事じゃないじゃないか。」
「僕もそう言ったんだけど、納得してくれないんだよね。」
マイルは肩をすくめた。
「世界を又に掛けて商売しているって言ってたけど、案外うといんだな。」
「あの強引さがあるからメリトスグループって栄えてるんだと思うけどね。」

「で、どうするんだ?」
アヴィンはマイルの向かいへ座った。 「うん。今は、デミール市長のいる国際劇場を第一に守っているだろう。これは続ける。それで、街の入り口・・・これは、東・西・南とあるから、全部一遍には無理かもしれないけど、どんな人が出入りしているかを、ヌメロス兵に悟られないように、僕たちも見張る。ヌメロス兵の動きも、もっと積極的に探ろうと思うんだ。」
「それは、何のためだ?」
「ヌメロス軍の弱点を見つけたいんだ。市庁舎の警備が手薄になる時間帯とか、兵士が出払ってしまう時間とか、知りたいんだよ。」
「ああ、そうか。俺たちが攻め込む時間を探ろうっていうことだな。」
「うん。それで、状況が掴めたら、次の段階を考えても良いと思うって、答えておいたんだよ。」
「そうか・・・。次の段階の中身が問題だよな。どっちにしても、当分はじっとしているのが仕事だな。」
「目だけは十分に働かせてね。」
マイルが言った。
「ふう。毎日こうやって神経の磨り減る事をするのか。」
剣を寝台の横に立て掛け、アヴィンは言った。
「なんだいアヴィンまで。もう弱音かい?」
「もうちょっとこう、動く事があるかと思っていたんだ。この街の人の考え方は俺とは違うんだよな。」
「贅沢を言わないの。ここは芸術の都なんだし、元々助けたいと言ったのはアヴィンなんだからね。」
「そうなんだよな・・・。」
大きな息をついて寝台に寝転がる。

「アヴィンにため息なんて似合わないよ。」
マイルは立ち上がった。
「確かに僕たちには重荷かもしれない。ミッシェルさんとは言わないけど、策士が欲しいよね。」
マイルは窓にもたれかかって外を見下ろした。
「・・・・・・」
「僕には、アヴィンを守る自信はあるけど、カヴァロの街や、この街の人まで守るなんて・・・、そんな大それた事は考えるだけで身がすくむよ。」
「じゃ、考えなければいい。」
アヴィンが言った。
「目の前のことだけ考えるんだ。先のことは考えない。目の前のことを片付けて、解決していけば、道は開けるんじゃないか。」
「そんなの、僕には無理だ。僕はそんなに強くないよ。アヴィンみたいに、先の不安を考えないように押しのけてしまう事も出来ないし、かといって、全て受け入れてしまうと僕がつぶれてしまう。」
「無理するなよ、マイル。」
アヴィンが身体を起こして、気遣わしげに言った。
「面倒そうな事、マイルにばかり任せていたのは俺が悪かった。これからは俺もちゃんと聞くから、そんな風に一人で抱え込むな。マイルに何かあったら・・・。」
「アヴィン、・・・ありがとう。」
マイルが嬉しそうに笑った。
「この街の人たちとは、腹を割って話せないからさ。アヴィンがそう言ってくれるの、凄く嬉しいよ。」
「大げさだなあ。それに、マイルはちょっと神経質なんだよ。街の人たちとは普通に話をすればいいじゃないか。」
「でも、何かのはずみで僕たちの素性が知れてしまうかもしれないだろう。だから、安心して話せないんだ。」
「素性を知ったからって、急に態度を変えたりはしないと思うけどな。ミッシェルさんもマイルも用心が過ぎるんだよ。」
「僕たちの考えは参考にならないよ。あっちこっち訪ね回っているミッシェルさんが警戒しているんだから、うかつな事はしない方がいい。あの人はきっと痛い目に遭っていると思うんだ。」
「そうかな。」
「あの人は旅が人生みたいだからね。僕たちの一生分以上の経験を積んでいるに違いないよ。」
「確かにな。でも、俺はこの街の人たちを信じたいな。」
「よくよくの事がない限りは、話さないでね、アヴィン。君一人の問題じゃなくなるんだから。」
「わかってるよ。」
アヴィンは立ち上がった。
「下で食事にしないか。俺はまた戻らなくちゃ。」
「僕も午後は見張りに立つよ。新しい仲間の人たちを不安にさせたくないからね。」

午後、見張り役は問題もなく過ぎた。
ヌメロス兵は、数人ずつが街の出入り口を見張っていたのと、街の西へ探索に行ったのが十人位。あとの兵は市庁舎から出てこなかった。
時おり、非番になった兵が食事を取るためだろう、鎧を脱いで出て行くのが見えた。
ヌメロス側が、今すぐにこちらの臨時市庁舎を襲うつもりはないとの認識を、アヴィンとマイルは改めて確認した。
ヌメロスはカヴァロを制圧している今の状態を良しとしている。
人と物資の流れを押さえる事で、又、デミール市長をはじめとする街の有力者をその活動の場から追い出すことで、街全体を押さえたと判断しているのだ。
だからと言って、国際劇場の守りを解く事は出来なかったが、適正な人数に配置しなおす事は出来そうだった。
マイルは、自分の考えをまず一つ実行した。
街の南、沼地に続く街道の入り口近くに、新たに見張りを置いたのである。
これは意外と簡単だった。
ホテル・ザ・メリトスの上の階の窓から、南の出入り口が見通せたのである。
味方の陣地の中なので、経験のない市民でも任せられた。
報告は夕刻、酒場で聞けばいい。
夕方、さっそく二人は最初の報告を聞く事になった。

夜の酒場はごった返していた。
ウェンディとテオドラの公演の事が話題に上ったのだろうか、今日はヌメロス兵が多かった。
アヴィンは昨日やりあった兵士を探したが見つからなかった。
テーブルを見渡すと、泣いている兵がいる。成果は上がっているようだ。
「ウェンディって、若いのに人の心を掴む歌を歌うね。」
マイルが言った。
「そうかい?」
「ちゃんと真面目に聞いてごらんよ、アヴィン。」
「俺は、見張りの方をちゃんとこなしているから。社交辞令はマイルに任せるよ。」
「なんか、ずるいよそれ。」
「俺は腕っ節を担当するんだ。ちょうどいいだろ?」
「そうだけどさ。昼間、自分もちゃんと聞くって言ってなかった?」
マイルが言うと、アヴィンはしまったと言う顔をした。
「傭兵さん、お待たせしたかな。」
商店主と思しき男が声を掛けてきた。南口を見張ってもらった市民だった。
「いいえ。どうぞ、掛けてください。さっそくですけど、どうでした?」
「あんまり出入りはなかったね。南は沼地に続いているだけだからね。」
男は言った。
「ヌメロスの連中は、三度通ったよ。こっちから出て行ったのが二回。外から入ってきたのが一回だ。」
ざわめきの中だったが、男は声を低くして言った。
「それは、同じ兵ですか?」
マイルが尋ねた。
「うーん、そこまではな。みんな同じ鎧かぶとをつけているから、ちょっと見ただけでは同じ兵かどうかわからないよ。」
「ここから南へ出て行くと、本当に沼地しかないのか?」
「ああ、そうだ。そりゃあ、森の中に分け入っていけば、東の街道にも西の街道にも出られるんだがね。普通はそんな危険なことをする人はいない。魔獣が出るからな。ただ、沼地の先の方は海につながっているんで、船と行き来するんだったら南から出るだろう。」
「船か・・・。」
「ポルカやジラフに上陸するより、はるかに早くカヴァロへ入れるからな。商品の仕入れが間に合わないときなんか、ボートに積ませて沼地へ陸揚げさせる事もあるよ。」
「港じゃないんですか?」
「ちゃんとした港はない。船は接岸するのは無理で、せいぜいボートが着けられる位だ。」
「そうか、わかりました。どうもありがとう。明日もよろしくお願いします。」
「ああ。しかし、本当は夜の間も見張った方が良いんだろうね。」
商店主は立ち上がりしな言った。
「ええ。でも、無理は禁物です。焦らずにいきましょう。」
マイルが答えた。

音楽家たちの公演が終わると、客はぐっと少なくなった。
ヌメロス兵たちもいなくなったので、アヴィンとマイルは引き上げる事にした。
「傭兵さん、ご苦労様。」
テーブルを立った二人にウェンディとテオドラが声を掛けた。
「昨日の怪我はたいした事ありませんの?」
ウェンディがアヴィンに尋ねた。
「ああ、何ともないよ。」
「逆恨みでけんかを吹っかけてくるなんて、ひどい兵士でしたわね。」
「一目で負けたとわかる顔にしたからな。今日も来るかと思ったが、さすがにあきらめたかな。」
アヴィンがしたり顔で言った。マイルも横から口を出した。
「君たちの方は大丈夫なの?」
「おかげさまでボディガードを付けられるところでしたけれど。ふふっ、カヴァロを一人で歩けなくなるくらいなら、こんな仕事やめますって駄々をこねてしまいました。」
ウェンディがさらりと物騒なことを言った。
「ウェンディはずっとアヴィンさんを心配していたんですよ。」
テオドラが言った。
「昨日はマイルさんがすぐに部屋へ連れて行ってしまったでしょう?どんな様子かわからなかったので、帰るのを嫌がって・・・」
「テオドラっ、もうっ、恩人の心配をしてどこがいけないと言うのよ。」
ウェンディは顔を赤らめて抗議した。アヴィンが笑った。
「テオドラだって、『マイルさんも魔法を使うのかしら?』なんて、舞い上がっていたじゃない。」
「あら、・・・だって。」
テオドラがうっすらと頬を染めた。
「見たことがなかったんですもの、魔法なんて。」
二人の会話は、アヴィンとマイルには好ましからぬものだったので、二人は顔を見合わせた。
アヴィンが二人に聞いた。
「魔法、そんなに珍しかったかい?」
「ええもう。見物人はみんな興奮していましたわ。」
「でも不思議ね。一体どこであんなものを習ったの?」
テオドラに聞かれてアヴィンは詰まった。
「山奥に隠れ住んでいる賢者さまだよ。さあ、君たち、誰かに送ってもらうの?何だったら僕たちで送っていくよ?」
マイルが二人に歩み寄った。
アヴィンはホッとした。やはり話術の巧みさではマイルに到底かなわなかった。
「ありがとう。でも、もうじきヴォルフが来てくれる約束なの。」
テオドラが言った。
「このあと、ほかの公演の打ち合わせなのよ。」
ウェンディが言った。
「あさって、貴族の別荘でパーティが開かれるの。そこで歌うのよ。そうだわ、是非来てくださいな! メリトス社長には私からお願いしておくわ。」
「本当かい? 嬉しいな。」
マイルが言った。
「きっと素敵だろうね。」
「まあ、お上手ね。アヴィンさんも来てくださいね。」
「いや・・・、俺はちょっと。」
アヴィンは口ごもった。
「だめよ!来てくれなくちゃ。あなたたちへのねぎらいの気持ちも込めて歌うわ。ね?」
「いや、俺は苦手だからさ・・・。」
「アヴィン、ウェンディちゃんのじきじきの招待を受けないつもりかい?」
後ろからバーテンが混ぜっ返した。
「バーテンさんまで・・・。」
「ちゃんと招待状も渡すから。待っててね。」
ウェンディは嬉しそうに言った。アヴィンは頭を抱えた。
困った。じっとして静かに音楽に耳を傾けるような時間は、アヴィンには縁のないものなのだ。
楽しそうに二人の音楽家と話すマイルを見ながら、アヴィンは途方に暮れていた。

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